かゆみを伴う斑点や丘疹、紅潮、消化不良、ときに骨の痛みまたはアナフィラキシー反応、アナフィラキシー様反応が現れます。
症状から肥満細胞症を疑い、皮膚や骨髄の生検により診断を確定します。
肥満細胞症が皮膚だけにとどまっていれば治療しなくても治る場合がありますが、他の部位に発生している場合は自然に治ることはありません。
抗ヒスタミン薬はかゆみを和らげ、H2受容体拮抗薬は消化不良を軽減する効果があります。
肥満細胞症の人はアドレナリンの自己注射用キットを常時携帯して、迅速にアナフィラキシー反応やアナフィラキシー様反応の緊急の治療ができるようにしておく必要があります。
(アレルギー反応の概要 アレルギー反応の概要 アレルギー反応(過敏反応)とは、通常は無害な物質に対して免疫系が異常な反応をすることを指します。 アレルギー反応は通常、くしゃみ、涙目、眼のかゆみ、鼻水、皮膚のかゆみ、発疹を引き起こします。 アナフィラキシー反応と呼ばれる一部のアレルギー反応は生命を脅かします。 症状からアレルギーが疑われ、アレルギー反応の引き金になった物質の特定には皮膚... さらに読む も参照のこと。)
肥満細胞の数が増えて、数年かかって組織に蓄積すると発症します。肥満細胞は 免疫系 免疫系の概要 人間の体には、異物や危険な侵入物から体を守る仕組みとして、免疫系が備わっています。侵入物としては以下のものがあります。 微生物( 細菌、 ウイルス、 真菌など) 寄生虫(蠕虫[ぜんちゅう]など) がん細胞 移植された臓器や組織 さらに読む を構成する細胞の仲間で、正常であれば、多くの身体組織に存在し、特に皮膚、肺、腸の粘膜に多くみられます。肥満細胞は、炎症反応やアレルギー反応、胃酸の分泌に関与する物質であるヒスタミンを生産します。この病気では肥満細胞の数が増えるためヒスタミンの量も増加します。ヒスタミンは消化器の異常など、多くの症状を引き起こす可能性があります。
肥満細胞症は珍しい病気です。慢性の病気であって一時的な反応ではないという点で他の典型的なアレルギー反応とは異なります。
肥満細胞症の原因となる遺伝子の突然変異がみられる場合もありますが、それ以外の場合では、この病気を引き起こす原因は分からないことがあります。
肥満細胞症の種類
肥満細胞症には、大きく分けて次の2種類があります。
皮膚肥満細胞症(主に皮膚)
全身性肥満細胞症(皮膚だけでなく臓器にも影響を及ぼす)
皮膚肥満細胞症にかかるのは、ほとんどが小児です。生後6カ月までの乳児では皮膚の一か所に肥満細胞が増殖して固まり(肥満細胞腫)ができることがあります。しかしもっと頻繁にみられるのは、肥満細胞が皮膚のあちこちに蓄積して、赤褐色の小さい斑点や丘疹をつくる色素性じんま疹です。小児では色素性じんま疹が進行して全身性肥満細胞症になることはめったにありませんが、成人ではそうなることがよくあります。
全身性肥満細胞症にかかるのは、ほとんどが成人です。典型的には、骨髄(血球がつくられる場所)に肥満細胞が蓄積します。また、肥満細胞は皮膚、胃、腸、肝臓、脾臓、リンパ節にも蓄積します。この場合も組織がほとんど影響を受けずに機能し続ける可能性はあります。しかし骨髄に過剰に肥満細胞が蓄積すると血液の細胞を十分に産生できなくなり、白血病などの重篤な血液疾患が発生する可能性があります。その他の臓器でも肥満細胞が多数集まると機能不全が起こり、結果として起こる問題により生命が脅かされることがあります。
マスト細胞活性化症候群(Mast cell activation syndrome:MCAS)は、肥満細胞の活動が過剰になり、その中身(炎症やアレルギー症状を引き起こすヒスタミンやその他の物質など)を放出することで発生します。そのため、MCASは肥満細胞症とは異なり、皮膚や他の組織に肥満細胞が過剰に蓄積することでは起こりません。ただし、症状は全身性肥満細胞症に似ていることがあります。症状には心拍数の上昇、失神、じんま疹、紅潮、吐き気、嘔吐、ブレインフォグなどがあります。症状は頻繁かつ急に起こることがあります。MCASは、特徴的な症状、臨床検査の結果、MCASに対する治療に反応して症状が軽減することに基づいて診断されるはずです。通常は 抗ヒスタミン薬 抗ヒスタミン薬 アレルギー反応(過敏反応)とは、通常は無害な物質に対して免疫系が異常な反応をすることを指します。 アレルギー反応は通常、くしゃみ、涙目、眼のかゆみ、鼻水、皮膚のかゆみ、発疹を引き起こします。 アナフィラキシー反応と呼ばれる一部のアレルギー反応は生命を脅かします。 症状からアレルギーが疑われ、アレルギー反応の引き金になった物質の特定には皮膚... さらに読む 、 ロイコトリエン阻害薬 ロイコトリエン修飾薬 ほとんどの喘息患者は薬剤を服用することで、比較的普通の生活を送ることができます。喘息発作の治療に使用される薬剤のほとんどが、発作の予防にも使用できます(しばしば用量を減らして使用されます)。( 喘息も参照のこと。) 治療は、次の2種類の薬剤を基本にして行われます。 非ステロイド系抗炎症薬(NSAID) 気管支拡張薬 抗炎症薬は、気道が狭くなる原因である炎症を和らげます。抗炎症薬には、コルチコステロイド(吸入、内服、静脈内投与が可能)、ロ... さらに読む 、 肥満細胞安定化薬 肥満細胞安定化薬 ほとんどの喘息患者は薬剤を服用することで、比較的普通の生活を送ることができます。喘息発作の治療に使用される薬剤のほとんどが、発作の予防にも使用できます(しばしば用量を減らして使用されます)。( 喘息も参照のこと。) 治療は、次の2種類の薬剤を基本にして行われます。 非ステロイド系抗炎症薬(NSAID) 気管支拡張薬 抗炎症薬は、気道が狭くなる原因である炎症を和らげます。抗炎症薬には、コルチコステロイド(吸入、内服、静脈内投与が可能)、ロ... さらに読む で治療します。肥満細胞活性化症候群が肥満細胞症に進行するかどうかは不明です。
肥満細胞症の症状
肥満細胞腫が1つできただけでは症状は現れないことがあります。
斑点や丘疹はかゆくなることがあり、特にこすったり掻いたりするとその傾向があります。かゆみは、以下によって悪化する可能性があります。
温度の変化
衣類または他の素材との接触
非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)などの一部の薬の使用
熱い飲みものや香辛料の効いた食品、アルコール類の摂取
運動
斑点をこすったり掻いたりすると、 じんま疹 じんま疹 じんま疹は、かゆみを伴う、わずかに盛り上がった赤い発疹です。腫れは、皮膚の肥満細胞から化学物質(ヒスタミンなど)が放出され、それらの化学物質の作用により毛細血管から一時的に体液が漏れ出すことで生じます。かゆみは重度になる場合があります。じんま疹の縁ははっきりしており、中心部が青白くなっていることがあります。じんま疹は出たり消えたりするのが典型的です。ある部位に数時間にわたって現れた後に消え、その後また別の部位に現れることがあります。じん... さらに読む になったり皮膚が赤くなったりします。
紅潮もよくあります。
消化性潰瘍 消化性潰瘍 消化性潰瘍(かいよう)とは、胃や十二指腸の内面が胃酸や消化液で侵食されて、円形やだ円形の傷ができた状態をいいます。 消化性潰瘍は、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)感染や、胃や十二指腸の粘膜を衰弱させる薬によって生じることがあります。 潰瘍による不快感が生じたり消えたりしますが、この不快感は食べることで胃酸が分泌されるために食後に起こる傾向があります。... さらに読む も起きることがありますが、これはヒスタミンが過剰に産生されて胃酸の分泌を促進するからです。潰瘍は胃痛を引き起こします。また、吐き気、嘔吐、慢性の下痢が起こることもあります。肥満細胞が肝臓や脾臓に蓄積し、その臓器に機能不全を引き起こすことがあります。結果として体液が腹部にたまり、腹部が大きくなることがあります。
骨髄が侵されると、骨の痛みと貧血が現れます。
肥満細胞症の人は、不機嫌になったり、抑うつ状態になったり、気分の変動がみられたりすることがあります。
広範な反応が発生することがあります。全身性肥満細胞症では広範な反応は重度になる傾向があります。これには、失神したり生命を脅かすほどの血圧の急激な低下(ショック状態 ショック ショックとは、臓器に向かう血流が減少することで、酸素の供給量が低下し、それにより臓器不全やときに死にもつながる、生命を脅かす状態です。通常、血圧は低下しています。 ( 低血圧も参照のこと。) ショックの原因には血液量の減少、心臓のポンプ機能の障害、血管の過度の拡張などがあります。 血液量の減少または心臓のポンプ機能の障害によってショックが起きると、脱力感、眠気、錯乱が生じ、皮膚が冷たく湿っぽくなり、皮膚の色が青白くなります。... さらに読む )を起こす、 アナフィラキシー反応やアナフィラキシー様反応 アナフィラキシー反応 アナフィラキシー反応は急に発症して広い範囲にわたり、生命を脅かすほど重症化することがあるアレルギー反応です。 アナフィラキシー反応の初期症状には不安感が多く、次いでピリピリした感じと、めまいが起こります。 症状がみるみる悪化して、全身にかゆみやじんま疹、腫れが出たり、喘鳴や呼吸困難が起きたり、失神したりします。これ以外のアレルギー症状が出ることもあります。 これらの症状は生命を脅かす状態まで急速に悪化する可能性があります。... さらに読む も含まれます。アナフィラキシー様反応はアナフィラキシー反応に似ていますが、アレルゲンが引き金となるわけではありません。
全身性肥満細胞症は骨髄を侵すことがあり、成人の全身性肥満細胞症患者のうち30%もが悪性腫瘍、特に 骨髄性白血病 急性骨髄性白血病(AML) 白血病は白血球の がんです。白血球には、感染症と戦う 免疫の働 さらに読む を発症します。このような患者の余命は短くなる可能性があります。
肥満細胞症の診断
骨髄生検
ときに血液検査
症状から肥満細胞症を疑います。特に斑点を掻くとじんま疹ができたり赤くなったりするのは大きな手がかりです。
骨髄生検により肥満細胞症の診断を確定できます。通常、 骨髄 骨髄検査 赤血球、ほとんどの 白血球、 血小板は、骨髄という骨の中にある脂肪に富んだ柔らかい組織でつくられます。場合によっては、血球が異常となった原因や、特定の種類の血球が少なすぎたり、多すぎたりする原因を特定するために、骨髄サンプルを調べなければならないことがあります。骨髄サンプルを採取するには、次の2つの方法を用いることができます。 骨髄穿刺(こつずいせんし):骨髄に針を刺して骨髄液と細胞を吸引することによって、骨髄液と細胞を採取する方法... さらに読む のサンプルを採取して顕微鏡で観察して肥満細胞があるかどうか調べ、肥満細胞がみられた場合は、その数と見た目を調べます。皮膚生検を行って肥満細胞があるかどうか調べることもできますが、それでも全身性肥満細胞症かどうかを調べるには骨髄生検が必要です。
医師は骨髄生検(多くの肥満細胞症患者にみられる特定の遺伝子変異の遺伝子検査を含みます)と血液検査の結果に基づき、特定の基準を用いて肥満細胞症を診断します。
診断がはっきりしない場合は、次の検査を行うことがあります。
肥満細胞に関連する物質の量を調べるための、血液検査および尿検査:この物質の量が増えていれば全身性肥満細胞症と診断する根拠になりますが、診断が確定するわけではありません。
骨シンチグラフィー
消化管内の肥満細胞の数が異常に多いかどうかを判定するための生検(内視鏡による)
肥満細胞症の治療
症状を緩和する薬
進行の速い全身性肥満細胞症には他の薬(インターフェロンやプレドニゾン[日本ではプレドニゾロン]など)や手術(脾臓摘出術など)
単一の肥満細胞腫の場合は、自然に消失することがあります。
皮膚肥満細胞症によるかゆみに対しては抗ヒスタミン薬を使うことがあります。小児の場合は抗ヒスタミン薬だけで十分です。成人であれば、かゆみと発疹には、ソラレン(皮膚を紫外線の作用に対して敏感にさせる薬剤)と皮膚への紫外線照射を併用したり、コルチコステロイドクリームを塗ったりすることがあります。
全身性肥満細胞症を治癒させることはできませんが、ヒスタミンH1受容体拮抗薬およびヒスタミンH2受容体拮抗薬で症状をコントロールすることができます。(これらの受容体拮抗薬はどちらも 抗ヒスタミン薬 抗ヒスタミン薬 アレルギー反応(過敏反応)とは、通常は無害な物質に対して免疫系が異常な反応をすることを指します。 アレルギー反応は通常、くしゃみ、涙目、眼のかゆみ、鼻水、皮膚のかゆみ、発疹を引き起こします。 アナフィラキシー反応と呼ばれる一部のアレルギー反応は生命を脅かします。 症状からアレルギーが疑われ、アレルギー反応の引き金になった物質の特定には皮膚... さらに読む ですが、抗ヒスタミン薬という用語は通常、H1受容体拮抗薬にのみ使われます。)H1受容体拮抗薬はかゆみを和らげます。 H2受容体拮抗薬 ヒスタミンH2受容体拮抗薬 消化性潰瘍、 胃炎、 胃食道逆流症(GERD)などのいくつかの胃の病気には胃酸が関与しています。胃に存在する酸の量は通常、このような病気の患者では正常ですが、胃と腸の損傷の治療や症状の緩和には、胃酸の量を減らすことが重要です。 プロトンポンプとは化学的過程の名称であり、これによって胃から酸が分泌されます。プロトンポンプ阻害薬は胃酸の分泌を最も強く抑制する薬です。プロトンポンプ阻害薬は、ヒスタミンH2受容体拮抗薬と比較して、より多くの人で... さらに読む により胃酸の分泌が抑えられるため、消化性潰瘍による症状が緩和され、潰瘍の治癒に役立ちます。肥満細胞安定化薬のクロモグリク酸は内服薬で、消化器系の問題と骨の痛みを軽減できます。H1受容体拮抗薬であり肥満細胞安定化薬でもあるケトチフェンは内服薬で、効果的な場合があります。アスピリンは紅潮には有効ですが、他の症状を悪化させる場合があります。また小児では ライ症候群 ライ症候群 ライ症候群は非常にまれな病気ですが、脳の炎症や腫れと、肝機能の低下または喪失をもたらし、生命を脅かすことがあります。 ライ症候群の原因は不明ですが、ウイルス感染症やアスピリンの使用が引き金になると考えられています。 ウイルス感染症の症状に続いて激しい吐き気、嘔吐、錯乱、反応の鈍化がみられるのが典型的で、ときに昏睡に至ることもあります。 診断は、小児の精神状態の急な変化、血液検査および肝生検の結果に基づいて下されます。... さらに読む のリスクがあるためアスピリンは使用しません。
全身性肥満細胞症がアグレッシブ型である場合は、化学療法薬のミドスタウリンまたはアバプリチニブ(avapritinib)を使用できます。インターフェロンアルファを週1回、皮膚の下に注射すると、骨髄への影響を抑えられることがあります。 コルチコステロイド コルチコステロイドの使用法と副作用 (プレドニゾン[日本ではプレドニゾロン]など)の経口投与が短期間のみ行われることがあります。しかし3~4週間を超えて内服を続けると、様々な、ときに重篤な副作用が起こる可能性があります。
脾臓に多量の肥満細胞がたまっている場合は脾臓を摘出することがあります。
また白血病を発症した場合はダウノマイシン、エトポシド、メルカプトプリンなどの化学療法薬が役立つ場合があります。
全身性肥満細胞症のある人は、アドレナリンの自己注射用キットを常時携帯して、迅速にアナフィラキシー反応やアナフィラキシー様反応の緊急の治療ができるようにしておく必要があります。