アスピリン中毒は、一度に高用量を摂取した後には急速に起こり、また低用量を長期間摂取した場合は徐々に起こります。
症状としては、耳鳴り、吐き気、嘔吐、眠気、錯乱、速い呼吸などがあります。
診断は血液検査の結果と症状に基づいて下されます。
治療では、活性炭を口か胃に入れたチューブから投与し、水分と重炭酸塩の静脈内投与を行い、重度の中毒に対しては 血液透析 血液透析 透析とは、体内の老廃物や過剰な水分を機械的に取り除く処置のことで、腎臓が十分な機能を果たさなくなったときに必要になります。 透析が必要になる理由はいくつかありますが、最も多いのは、腎臓が血液から老廃物を十分にろ過できなくなること(腎不全)です。腎臓の機能は急速に低下することもあれば(... さらに読む を行います。
(中毒の概要 中毒の概要 中毒とは、有害物質を飲み込んだり、吸い込んだり、皮膚や眼、または口や鼻などの粘膜に接触したときに生じる有害作用です。 中毒を起こす可能性のある物質としては、処方薬や市販薬、違法薬物、ガス、化学物質、ビタミン類、食べもの、キノコ類、植物、動物の毒などがあります。 ダメージを与えない毒物もありますが、重度の損傷を引き起こし、死をもたらす毒物も... さらに読む も参照のこと。)
急性アスピリン中毒
アスピリンやその類似薬(サリチル酸系薬剤)は、過剰に摂取すると急速に(急性)中毒が起こることがあります。ただし、よほど大量に摂取しなければ急性中毒は起こりません。体重約70キログラムの人では、325ミリグラムのアスピリン錠剤を30錠服用しても、軽い中毒を起こすだけです。このため、急性のアスピリン中毒が偶発的に起こることはほとんどありませんが、ウインターグリーンオイル(サリチル酸メチル:冬緑油、ヒメコウジの精油)などの皮膚に塗ることを意図されている濃縮されたサリチル酸製品は、偶発的な中毒の原因になります。
徐々に発生するアスピリン中毒
通常用量またはそれよりわずかに多い用量のアスピリンを長期間服用することで、意図しないうちに徐々にアスピリン中毒が発生することがあります。発熱がみられる小児に、アスピリンを処方された量より若干多めに数日間服用させると中毒を起こす可能性がありますが、小児の発熱の治療には、 ライ症候群 ライ症候群 ライ症候群は非常にまれな病気ですが、脳の炎症や腫れと、肝機能の低下または喪失をもたらし、生命を脅かすことがあります。 ライ症候群の原因は不明ですが、ウイルス感染症やアスピリンの使用が引き金になると考えられています。 ウイルス感染症の症状に続いて激しい吐き気、嘔吐、錯乱、反応の鈍化がみられるのが典型的で、ときに昏睡に至ることもあります。 診断は、小児の精神状態の急な変化、血液検査および肝生検の結果に基づいて下されます。... さらに読む を発症する可能性があるため、アスピリンが投与されることはめったにありません。米国で小児用に市販されているせき止め薬やかぜ薬にはアスピリンは含まれていません。ほとんどの商品が含んでいるのは、アセトアミノフェンかイブプロフェンです。
成人(多くは高齢者)が数週間にわたって服用した結果、徐々に中毒を起こすことがあります。
冠動脈疾患 冠動脈疾患の概要 冠動脈疾患とは、心臓の筋肉(心筋)への血液供給が部分的または完全に遮断されることで起きる病気です。 心筋は酸素を豊富に含んだ血液を絶えず必要とします。その血液を心臓に送る血管は、大動脈が心臓から出たところで枝分かれする 冠動脈です。この血管が狭くなる冠動脈疾患では、血流が遮断されて、... さらに読む の患者に対して心臓発作のリスクを減らすために推奨されている低用量のアスピリン(1日当たり小児用アスピリン1錠か、成人用アスピリン半錠または成人用アスピリン1錠)は、長期間服用した場合でもアスピリン中毒を起こすには少なすぎる量です。
知っていますか?
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アスピリン以外のサリチル酸化合物による中毒
アスピリン中毒の症状
急性アスピリン中毒では、通常は最初に以下の症状がみられます。
吐き気と嘔吐
深く速い呼吸
耳鳴り
発汗
中毒が重度の場合には、ふらつき、発熱、眠気、多動、錯乱、けいれん発作、筋肉組織の破壊(横紋筋融解症 横紋筋融解症 横紋筋融解症は、病気、けが、または有害物質によって損傷を受けた筋線維が分解され、その内容物が血流に放出されることで発生します。重症になると、急性腎障害が起きることがあります。 一般的な原因としては、筋肉の損傷、損傷した組織の血行障害、薬、有害物質、感染症などがあります。 あまり一般的でない原因としては、電解質平衡異常、内分泌疾患や遺伝性疾患、激しい運動、極端な体温変化などがあります。... さらに読む )、 腎不全 腎不全の概要 この章には、 COVID-19および急性腎障害(AKI)に関する新しいセクションが含まれています。 腎不全とは、血液をろ過して老廃物を取り除く腎臓の機能が十分に働かなくなった状態のことです。 腎不全の原因としては、様々なものが考えられます。腎機能が急激に低下する場合( 急性腎障害、急性腎不全とも呼ばれます)もあれば、ゆっくりと低下していく... さらに読む 、呼吸困難が現れます。
徐々に発生するアスピリン中毒では、症状が数日から数週間かけて発生します。最もよくみられる症状は以下のものです。
眠気
ごく軽度の錯乱
幻覚
ふらつき、速い呼吸、息切れ、発熱、脱水、低血圧、血液中の酸素レベルの低下(低酸素症)、血液中の乳酸の蓄積(乳酸アシドーシス)、肺への液体貯留(肺水腫)、けいれん発作、脳浮腫が現れる場合もあります。
アスピリン中毒の診断
血液検査
血液中のアスピリン濃度を正確に測定するために血液サンプルを採取します。血液のpH(血液中の酸の量)や、二酸化炭素や重炭酸塩の値を測定することも、中毒の重症度を判断する手がかりになります。通常は治療中に検査を数回繰り返して、回復しているかどうかを調べます。
アスピリン中毒の治療
活性炭
炭酸水素ナトリウムとカリウムの静脈内投与
ときに血液透析
活性炭 毒物の吸収の防止 をできるだけ早く投与して、アスピリンの吸収を防ぎます。中等度と重度の中毒では、炭酸水素ナトリウムを含む輸液を静脈から投与します。腎損傷がなければ、輸液にカリウムを加えます。この混合液によりアスピリンが血液中から尿中へ移動します。このような治療を行っても患者の状態が悪化している場合には、 血液透析 血液透析 透析とは、体内の老廃物や過剰な水分を機械的に取り除く処置のことで、腎臓が十分な機能を果たさなくなったときに必要になります。 透析が必要になる理由はいくつかありますが、最も多いのは、腎臓が血液から老廃物を十分にろ過できなくなること(腎不全)です。腎臓の機能は急速に低下することもあれば(... さらに読む (人工腎臓[ダイアライザ]を使用して毒物をろ過する療法)によって、アスピリンや他のサリチル酸化合物や酸を血液から除去することができます。発熱やけいれん発作などの他の症状は必要に応じて治療します。
さらなる情報
役立つ可能性がある英語の資料を以下に示します。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。
米国中毒情報センター協会(American Association of Poison Control Centers):米国に拠点を置く中毒センターで、無料で秘密厳守の中毒ヘルプライン(Poison Help Line、1-800-222-1222、24時間年中無休、米国のみ)を運営している【訳注:日本では、大阪中毒110番072-727-2499、または、つくば中毒110番029-852-9999】