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中毒の概要

執筆者:

Gerald F. O’Malley

, DO, Grand Strand Regional Medical Center;


Rika O’Malley

, MD, Grand Strand Medical Center

レビュー/改訂 2022年 5月
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やさしくわかる病気事典
本ページのリソース

中毒とは、有害物質を飲み込んだり、吸い込んだり、皮膚や眼、または口や鼻などの粘膜に接触したときに生じる有害作用です。

  • 中毒を起こす可能性のある物質としては、処方薬や市販薬、違法薬物、ガス、化学物質、ビタミン類、食べもの、キノコ類、植物、動物の毒などがあります。

  • ダメージを与えない毒物もありますが、重度の損傷を引き起こし、死をもたらす毒物もあります。

  • 症状、本人や目撃者から得た情報と、ときには血液検査や尿検査の結果に基づいて診断されます。

  • 薬は必ず、子どもが開けることのできない元の容器のまま、子どもの手の届かない場所に保管します。

  • 治療には、支持療法、毒物のさらなる吸収の防止、毒物の排出の促進、ときに特定の解毒剤を投与するなどがあります。

米国では年間200万人を超える人が何らかの中毒を起こしています。薬(処方薬、市販薬、違法薬物)が、重篤な中毒や中毒関連死の原因として一般的です(アセトアミノフェン中毒 アセトアミノフェン中毒 アセトアミノフェンは多くの処方薬および非処方薬に含まれる一般的な成分であり、通常の用量であれば安全ですが、重度の過剰摂取は肝不全や死に至る可能性があります。 アセトアミノフェンを含有する製品を何種類も服用することによって、中毒を起こす場合があります。 血液中のアセトアミノフェンの量により、まったく症状がない場合から、嘔吐や腹痛、肝不全、さ... さらに読む および アスピリン中毒 アスピリン中毒 アスピリンとサリチル酸系薬剤と呼ばれる関連薬剤は、多くの処方薬や市販薬に含まれる一般的な成分であり、通常の用量であれば安全ですが、重度の過剰摂取は重度の症状を引き起こし、まれに死に至ることがあります。 アスピリン中毒は、一度に高用量を摂取した後には急速に起こり、また低用量を長期間摂取した場合は徐々に起こります。... さらに読む を参照)。ほかに一般的な毒物としては、ガス(例えば、 一酸化炭素 一酸化炭素中毒 一酸化炭素は無色無臭の気体で、多くの物質が燃焼する際に産生され、大量に吸入すると中毒となる可能性があります。 一酸化炭素中毒はよく起こります。 症状としては、頭痛、吐き気、眠気、錯乱などがあります。 血液検査の結果に基づいて診断されます。 一酸化炭素検出器の設置や、暖炉など室内で燃焼しているものがあれば十分に換気すること、閉め切った空間(... さらに読む )、家庭用品(腐食性物質による中毒 腐食性物質による中毒 腐食性物質は非常に強い酸性またはアルカリ性の化学物質で、飲み込むと口腔および消化管に重度の熱傷を引き起こす可能性があります。 腐食性物質を飲み込むと、その物質が接触した唇から胃までの組織すべてに熱傷(やけど)を負います。 症状は、痛み(特に飲み込むとき)、せき、息切れ、嘔吐などです。... さらに読む を参照)、農業用品、 植物 植物による中毒 一般的に栽培されている植物のうち、非常に毒性の強いものはごく少数で、多くのその他の植物ではそれほど深刻な毒性作用を示すものはありません。 一般に、植物の毒性が非常に強い場合や大量に摂取した場合(例えば、葉やその他の部分を濃縮してペースト状にしたり茶として煎じたりしたものを摂取した場合)でなければ中毒を起こす可能性は高くありません。... さらに読む 、重金属(例えば、 鉄中毒 鉄は生命に不可欠なミネラルですが、鉄を過剰に摂取すると、重度の症状や肝傷害を引き起こし、さらには死に至ることもあります。 症状は段階的に発生し、嘔吐、下痢、腹痛から始まります。 数日後に肝不全が発生することがあります。 鉄中毒は、患者の病歴、症状、鉄の血中濃度に基づいて診断されます。... さらに読む 鉛中毒 鉛中毒は、脳、神経、腎臓、肝臓、血液など、体の様々な部分に影響を与えます。神経系が発達中のため、特に小児は鉛の影響を受けやすくなっています。 鉛中毒の原因は、鉛入りの塗料を飲み込むことや、不適切な鉛の釉薬(ゆうやく)をかけた輸入陶磁器で飲食することなどです。 鉛の血中濃度が非常に高いと、人格の変化、頭痛、感覚の消失、脱力、口の中の金属味、... さらに読む )、ビタミン類、動物の毒、食べもの(特に特定の キノコ類 毒キノコ中毒 毒があるキノコ類は多く、キノコの種類によって引き起こされる症状が異なる可能性があります。 キノコの種類によって、作られる毒素とその作用が異なります。 同じ種でも、キノコの生育時期や調理法によって毒性の強さが異なる可能性があります。 毒キノコと毒のないキノコを区別するのは、知識のある人でも難しく、民間伝承の知識はあてになりません。... さらに読む 魚介類 魚や貝による中毒 特定の種類の魚や貝(生または冷凍のもの)には、様々な症状を引き起こしうる毒素が含まれていることがあります。 毒素による嘔吐および下痢( 胃腸炎)は、病気を引き起こす細菌またはウイルスに汚染された魚(またはその他の食物)を食べたことによる胃腸炎とは異なるものです。 魚を食べることで起こる中毒にはよくみられる以下の3つのタイプがあります。... さらに読む )などがあります。しかし、どんな物質でも大量に摂取すれば中毒になる(有害な)可能性があります。

中毒事故

中毒は、家庭内で発生する非致死的な事故の最も一般的な原因です。幼児は、その好奇心と探検したがる傾向から、特に家庭内で中毒事故を起こしやすく、また高齢者は薬の飲み間違えから中毒事故をよく起こします。小児は発見した錠剤や物質を他の小児と共有することが多いため、兄弟姉妹や遊び友達も中毒を起こす可能性があります。入院患者(薬剤エラーによる)、工業労働者(有害な化学物質にさらされることによる)も中毒事故を起こしやすい人です。

故意の中毒

自殺や殺人で故意に中毒を起こすこともあります。中毒自殺を試みる成人の大半は、複数の薬を飲んだうえにアルコールを飲んでいます。人を無力化するために中毒が用いられることもあります(例えば、レイプや強盗などのため)。まれに、精神障害がある親が子どもに中毒を起こして病気にさせ、医学的な処置を受けようとすることがあります(他者に負わせる作為症 他者に負わせる作為症 他者に負わせる作為症は、他者について身体疾患または精神障害の症状を装ったり、作り出したりする精神障害です。通常は養育者(典型的には親)が世話をしている相手に対して行います。 ( 身体症状症および関連症群の概要も参照のこと。) この病気は、以前は代理人による虚偽性障害や代理ミュンヒハウゼン症候群と呼ばれていました。... さらに読む [かつての代理ミュンヒハウゼン症候群]と呼ばれる疾患)。

中毒の症状

中毒による症状は、毒物の種類、摂取量、年齢、摂取した人の健康状態によって変わります。毒物の中には、作用が弱く、長期間さらされていた場合や、大量に繰り返し摂取した場合にのみ問題が現れるものもあります。逆に、皮膚に1滴落ちただけで重度の症状を引き起こす、強い作用のある毒物もあります。

毒物の中には、数秒以内に症状が現れるものもあれば、数時間後や数日後、さらには数年後にならないと症状が現れないものもあります。毒物によっては、肝臓や腎臓のような重要臓器に損傷が及ぶまで明らかな症状がほとんどみられないことがあり、ときには臓器が永続的な損傷を受けるまで症状が現れないこともあります。

飲み込まれ吸収された毒性物質は一般的に全身にわたる症状を引き起こします。その理由の多くは、毒性物質が体の細胞から酸素を奪ったり、酵素や受容体を活性化したり遮断したりするためです。症状としては、意識レベル、体温、心拍数、および呼吸の変化などのほか、影響を受けた臓器に応じて様々なものがあります。

腐食性または刺激性の物質は口、のど、消化管、肺の粘膜を傷つけ、痛み、せき、嘔吐、息切れを引き起こします。

皮膚の毒性物質との接触は、発疹、痛み、水疱など様々な症状の原因になります。長時間触れていると皮膚炎が生じることがあります。

眼の毒性物質との接触は眼を傷つけることがあり、眼の痛み、発赤、視力障害を引き起こします。

毒性のない主な家庭用品*

  • 接着剤

  • 制酸薬

  • バスオイル†

  • 風呂用おもちゃ(浮かべるもの)

  • 漂白剤(家庭用濃度:6%未満の次亜塩素酸ナトリウムおよび0.5%未満の水酸化ナトリウム)

  • ボディーローション

  • ボディーソープ†

  • ろうそく

  • カーボワックス(ポリエチレングリコール)

  • カルボキシメチルセルロース(フィルムや本などの製品と一緒に包装される除湿剤)

  • ヒマシ油

  • セチルアルコール(セタノールとも呼ばれ、シャンプーやコンディショナーなど、ある種の化粧品に使用される物質)

  • チョーク(炭酸カルシウム)

  • オーデコロン

  • 経口避妊薬

  • コルチコステロイド(皮膚に塗るもの)

  • 化粧品

  • クレヨン

  • デオドラント剤

  • 消臭剤(スプレー式、冷蔵庫用)

  • おむつ皮膚炎用のクリームや軟膏

  • 乾電池(アルカリ)

  • 衣類用柔軟剤

  • 発光製品(ケミカルライト、発光ネックレスなど)

  • グリセロール

  • モノステアリン酸グリセリン

  • 黒鉛

  • ガム(アラビアガム、寒天、ガティガムなど)

  • ハンドローション、ハンドクリーム

  • 過酸化水素(3%薬用)

  • 油性ペン、フェルトペン

  • インク(ボールペン1本に入っている程度の量)

  • ヨウ化物塩

  • カオリン

  • ラノリン

  • 鉛筆(黒鉛製のもの)

  • リノール酸

  • 亜麻仁油(ボイル油でないもの)

  • マジックマーカー

  • マッチ

  • メチルセルロース

  • 鉱物油†

  • 模型用粘土

  • 新聞紙

  • 水彩絵の具または水性塗料

  • 香水

  • ワセリン

  • 肥料(家庭用)

  • ポリエチレングリコール(ステアリン酸ポリエチレングリコールなど)

  • ポリソルベート

  • パテ

  • 匂い袋(エッセンシャルオイル、パウダー)

  • ひげ剃り用のクリームやローション

  • シリカ(二酸化ケイ素)

  • 石けん、石けん製品(ハンドソープなど)

  • 鯨ろう

  • 糊、サイズ剤

  • ステアリン酸

  • 日焼け止め

  • タルク(吸入した場合を除く)

  • 二酸化チタン

  • 歯磨き粉(フッ素入り、フッ素なし)

  • トリアセチン(グリセリン三酢酸)

  • ビタミン類(鉄含有または鉄非含有の小児用総合ビタミン剤)

  • ビタミン類(鉄非含有の総合ビタミン剤)

  • ワックス、パラフィン

  • 酸化亜鉛

  • 酸化ジルコニウム

*どんな物質でも大量に摂取すると中毒になることがあります。

†油や洗剤のようにある程度粘性のある物質は、飲み込んでも毒性はありませんが、肺に吸い込んだり誤って肺に飲み込まれたりすると、肺に大きな損傷を与えることがあります。

中毒に対する応急処置

中毒患者を助ける際に最も優先すべきことは、救助者自身が中毒を起こさないことです。

化学物質がこぼれたときは、靴下や靴も含めて汚染された衣類をすべて速やかに脱ぎ、アクセサリーも外します。皮膚を石けんと水で徹底的に洗います。眼に入った場合は水または生理食塩水で徹底的に洗浄します。救助にあたる人は自分自身が汚染されないように注意しなければなりません。

体調が非常に悪そうな場合は、救急車を呼びます(米国の大半の地域では911番、日本では119番)。 必要な場合は、近くにいる人が 心肺蘇生 救命・応急手当 心停止とは、心臓から脳やその他の臓器および組織に血液と酸素が送り出されなくなった状態です。いったん心停止が起きても、特に直ちに治療が開始された場合は、ときに蘇生できる可能性があります。しかし、酸素を多く含む血液が脳に供給されない時間が長くなるほど、蘇生の可能性は下がっていき、蘇生できた場合も脳に障害が残る可能性が高くなります。... さらに読む 救命・応急手当 を行うべきです。そこまで具合が悪くなさそうな場合には、地域の中毒管理センターに連絡して助言を求めます。米国では、800-222-1222で地域の中毒情報センターにつながります【訳注:日本では、大阪中毒110番072-727-2499、または、つくば中毒110番029-852-9999】。詳しい情報は、米国中毒情報センター協会のウェブサイト(www.aapcc.org)【訳注:(公財)日本中毒情報センターのウェブサイトはhttps://www.j-poison-ic.jp】で入手することができます。中毒情報センターに電話をかけた人が、毒物の種類や摂取量を把握している、またはそれを調べることができるのであれば、中毒情報センターに勧められた場合に限り、しばしばその場で治療を開始できます。

毒物の容器や摂取した可能性のあるすべての薬(市販薬を含む)を保管しておき、医師か救急隊員に渡すようにします。中毒情報センターは、病院に到着する前に 活性炭 毒物の吸収の防止 を飲ませるよう指示することや、特に病院が遠い場合には、まれにトコン(吐根)シロップを与えて、嘔吐を誘発するよう指示することもあります。しかしながら、特別な指示がない限り、活性炭やトコンシロップを家庭で与えたり、最初に対応する人(救急隊員など)がそれらを与えたりしてはいけません。トコンシロップには予測できない作用があり、しばしば嘔吐が長引くうえ、胃から十分な量の毒物が排出されないことがあります。

中毒の診断

  • 毒物の特定

  • ときに尿および血液の検査

  • まれに腹部X線検査

毒物の特定が、治療の役に立ちます。容器のラベルや、本人、家族、同僚からの情報は、医師や中毒センターが毒物が何かを突き止めるために最も役に立ちます。ラベルが手に入らない場合は、錠剤やカプセルの色や印で、しばしば薬を特定できます。臨床検査で毒物が特定されることはほとんどなく、多くの薬や毒物は、病院で容易に特定したり測定したりできません。しかし、ときに尿検査や血液検査が特定に役立つことがあります。 また、血液検査により中毒の重症度を明らかにできる場合もありますが、それが可能なのはごく少数の毒物です。

医師は診察を行い、特定の種類の物質を疑わせる徴候がないか探します。例えば、薬物を注射したことを示す注射痕を探します(注射薬物の使用 注射薬物の使用 薬物の使用法には、飲み込む、煙を吸い込む、粉末にして鼻から吸引する(鼻でかぐ)、または注射するなどの方法があります。薬物を注射した場合には、作用がより早く現れたり、より強く現れたり、その両方が起こることがあります。 薬物は静脈内、筋肉内、または皮膚の下に注射します。静脈内注射では一般的に腕の静脈を使用しますが、その部分が瘢痕化したり損傷し... さらに読む 注射薬物の使用 を参照)。さらに、特定の種類の中毒に特徴的な症状についても調べます。皮膚に薬物や物質の痕跡がないか、皮膚から薬物が吸収された跡が皮膚のしわ、口蓋、舌の裏に隠されていないかを確認します。

中毒の種類によっては、腹部X線検査により飲み込んだ物質の存在とその位置が分かる場合があります。X線画像に写る毒物には、鉄、鉛、ヒ素などの金属や、密輸者(いわゆる運び屋、ボディパッカー)が飲み込んだコカインなどの違法薬物の包みなどがあります(ボディパッキングとボディスタッフィング ボディパッキングとボディスタッフィング 国境やその他の検問所で違法薬物をこっそり持ち込むために、薬物を詰めた包みを自分で飲み込んだり、体腔に隠したりします。 包みが破れると、薬物の過剰摂取になり、場合によっては重い症状を引き起こします。 薬物の過剰摂取のリスクおよび結果は、薬物の量および種類、ならびにそれを包装した方法によって異なります。... さらに読む を参照)。電池や磁石もX線画像に写るほか、動物から攻撃や毒液注入を受けた後にその一部(牙や歯、背骨の軟骨など)が体内に残っている様子も写ります。

薬物検査

現在では、尿中の薬物を特定するためのキットが市販されています。そのようなキットの精度は、製品によって大きく異なります。そのため、そのキットの結果が、特定の薬物を飲んだという証拠や、飲んでいないという証拠になると考えてはいけません。最もよいのは、専門家と相談しながら検査を行うことです。専門家がいない状況で検査を行った場合、結果について薬物検査の経験がある専門家と話し合う必要があります。 専門家は、検査結果を解釈して適切な結論を導き出すのを助けることができます。

中毒の予防

米国では、子どもが開けられない安全キャップ付き容器が普及したことで、5歳未満の小児の中毒死が大幅に減少しました。中毒事故を防ぐために、薬やその他の危険性がある物質は必ず元の容器に入れたまま保管し、子どもの手の届かない場所に保管します。殺虫剤や洗浄剤などの有害物質は、短期間であっても飲みもののびんやカップに入れてはいけません。その他の予防策としては以下のものがあります。

  • 家庭用品に内容がすぐに分かるラベルを貼る

  • 薬(特にオピオイド)や毒性のある物質や危険な物質を子どもの手の届かない戸棚に鍵をかけて保管する

  • 一酸化炭素検出器を使用する

期限切れの薬は、ネコ用砂などの興味を引かない物質と混ぜ、子どもが開けられないゴミ箱に入れて廃棄します。地元の薬局に電話して、適切な薬の廃棄方法について助言を求めることもできます。どのような薬でも家庭用品でも、使用する前には説明書をすべて読むべきです。

市販の鎮痛薬の容器当たりの量を制限することで、中毒の重症度を下げることができます(特にアセトアミノフェン、アスピリン、イブプロフェンによる中毒)。製薬会社が錠剤やカプセルに印刷している識別記号は、薬剤師や医療従事者などによる混同や間違いを防ぐために役立ちます。

知っていますか?

  • 米国では、1-800-222-1222で地域の中毒情報センターにつながります【訳注:日本では、大阪中毒110番072-727-2499、または、つくば中毒110番029-852-9999】

中毒の治療

中毒を起こすと、入院が必要になる場合があります。迅速に治療を行えば、ほとんどの人は完治します。

すべての中毒治療で共通する原則があります。

  • 呼吸、血圧、体温、心拍などの生命機能を維持する支持療法を行う

  • 毒物がさらに吸収されるのを防ぐ

  • 毒物の排出を促す

  • 適切な解毒剤(毒物の排出を促す物質や、毒物を不活性化したり、毒物の作用を打ち消したり物質)があれば投与する

  • 再び毒物にさらされないようにする

病院で行われる治療の通常の目標は、体内の毒物がなくなるか不活性化されるまで、生命を維持することです。最終的には、ほとんどの毒物は肝臓で不活性化され、尿中に排出されます。

支持療法を行う

中毒に対しては、毒物がなくなるか不活性化されるまで、心臓、血圧、呼吸を安定させるための治療(支持療法といいます)が必要になることがよくあります。例えば、患者が強い眠気を催したり昏睡状態に陥ったりした場合には、気管に呼吸用のチューブを挿入しなければならないことがあります。チューブを 人工呼吸器 人工呼吸器 人工呼吸器は、肺への空気の出入りを補助するために用いる機械です。 呼吸不全の患者の一部は、人工呼吸器(肺に出入りする空気の流れを補助する機械)による呼吸の補助を必要とします。人工呼吸器によって命が助かることもあります。 人工呼吸器には、多くの使い方があります。通常は、合成樹脂製のチューブを鼻または口から気管に挿入します。人工呼吸器が数日以... さらに読む に接続して、呼吸を補助します。チューブによって肺へ吐瀉物(としゃぶつ)が入ることを防ぎ、人工呼吸器で十分な呼吸が確保できます。

けいれん発作、発熱、嘔吐をコントロールする治療も必要になることがあります。毒によって高熱が出ている場合、患者の冷却が必要になることがあり、例えば冷感ブランケットを使用したり、ときには冷水や氷を皮膚にあてたりします。

腎臓の機能が停止した場合は、 血液透析 血液透析 透析とは、体内の老廃物や過剰な水分を機械的に取り除く処置のことで、腎臓が十分な機能を果たさなくなったときに必要になります。 透析が必要になる理由はいくつかありますが、最も多いのは、腎臓が血液から老廃物を十分にろ過できなくなること(腎不全)です。腎臓の機能は急速に低下することもあれば(... さらに読む 血液透析 が必要です。肝臓に広範囲の傷害が生じた場合は、 肝不全 肝不全 肝不全は、肝機能が大幅に低下した状態です。 肝不全は、肝臓に損傷が起きる病気や物質により引き起こされます。 ほとんどの患者は 黄疸(皮膚と眼が黄色くなる)になり、疲れて脱力を覚え、食欲を失います。 他の症状には、腹部への体液の貯留( 腹水)や、皮下出血や出血が起きやすい傾向などがあります。... さらに読む に対する治療が必要になることがあります。肝臓や腎臓が重度で永続的な損傷を受けた場合は、 肝移植 肝移植 肝移植とは、健康な肝臓またはときに生きている人から肝臓の一部を手術で摘出し、肝臓が機能しなくなった人に移植することです。 ( 移植の概要も参照のこと。) 肝移植は2番目に多い臓器移植です。肝臓が機能しなくなった人々に残された唯一の選択肢です。 完全な形の肝臓は死亡した人からしか提供を受けられませんが、肝臓の一部であれば生きているドナーでも... さらに読む 腎移植 腎移植 腎移植とは、生きている人または死亡した直後の人から健康な腎臓を摘出し、末期腎不全の患者に移植することです。 ( 移植の概要も参照のこと。) 不可逆的 腎不全(腎臓が機能せず、治療しても治らない)の患者にとって、年齢にかかわらず腎移植は透析に代わる救命法です。腎移植は最も多く行われている臓器移植です。... さらに読む 腎移植 が必要になることがあります。

眼と皮膚からの毒の除去

眼や皮膚に毒物が付着した場合、通常は大量の食塩水か水道水で洗い流す必要があります。石けんと水で皮膚を洗い流すこともあります。

毒物の吸収の防止

毒物を飲み込んだ場合に、血流に入ることを阻止できないほど非常に速く体に吸収されてしまうものはごくわずかです。しかしながら、そのような対策は特定の毒物および状況に対してのみ効果的です。

胃内容物の除去(嘔吐や胃洗浄など)は、かつてはよく行われていましたが、毒物をわずかしか除去できず、重篤な合併症を引き起こす可能性があるため、現在では通常行われません。胃内容物を除去しても、結果が改善することはほとんどありません。ただし、ごくまれに、非常に危険な毒物の場合や、患者の具合が非常に悪くみえる場合には、胃洗浄が行われることがあります。

この処置では、口から胃にチューブを挿入します。チューブを通じて胃に水を注入した後、胃の中の水を排出します(胃洗浄)。この処置を何度か繰り返し行います。患者が毒物により眠気を催している場合、通常は最初に合成樹脂製の呼吸用のチューブを口から気管に挿入します(気管挿管)。気管挿管により、胃の洗浄液が肺に入るのを防ぎます。

嘔吐を引き起こす薬剤であるトコンシロップは、有毒物質を飲み込んだ小児に対して、しばしば投与されていました。しかしながら、この治療法では多くの場合、飲み込んだ物質のほとんどが除去されませんでした。現在では、トコンは毒性の強い物質のみに対して、また救急部門への搬送に時間がかかる場合に使用されます。トコンシロップは、効果が安定していないため、病院での胃内容物の除去には使用されません。

活性炭は、毒物を飲み込んだ人に救急医療機関で投与されることがあります。活性炭は消化管内にある毒物を吸着して、血液中に吸収されるのを防ぎます。患者が覚醒していて協力的であれば、通常は服用してもらいます。非協力的または嗜眠状態の人に、鼻または口に通したチューブを介して活性炭を投与することは推奨されません。体内の毒物を取り除くため、4~6時間おきに活性炭を投与する場合もあります。しかし、すべての毒物が活性炭で不活性化されるわけではありません。例えば、活性炭はアルコール、鉄、家庭用の化学物質の多くを吸着しません。

全腸管洗浄は、消化管から毒物を洗い流すための治療法です。これはときおり行われるのみで、その例としては、重篤な中毒が発生しており、原因の毒物が消化管に引っかかっているか物理的に取り除く必要がある場合(隠して密輸した薬物の包みなど)や、毒物がゆっくりと吸収されるもの(徐放性の薬)や活性炭で吸収されないもの(鉄や鉛など)である場合などがあります。

毒物の排出を促す

活性炭吸着療法では、患者の血液を活性炭に通して、毒物の除去を助けます(表「 血液ろ過と血液吸着:血液をろ過する別の方法 血液ろ過と血液吸着:血液をろ過する別の方法 血液ろ過と血液吸着:血液をろ過する別の方法 」を参照)。

どちらの方法も細い管(カテーテル)を血管内に挿入し、動脈から血液を取り出し、静脈に戻します。血液を特殊なフィルターに通過させて、有害物質を取り除いてから体内に戻します。

ときに、アルカリ化利尿が用いられます。この処置では、炭酸水素ナトリウム(重曹)溶液を静脈から投与して、尿をアルカリ性(塩基性、つまり酸性の反対)にします。こうすると、特定の薬(アスピリンやバルビツール酸系薬剤など)が尿中に排出される量が増加します。

解毒剤

ほとんどの毒物や薬には、(テレビや映画で一般的な考え方とは異なり)特定の解毒剤はありませんが、一部には解毒剤があるものもあります。特定の解毒剤が必要になる可能性のある一般的な薬としては、アセトアミノフェン(解毒剤はN-アセチルシステイン 治療 アセトアミノフェンは多くの処方薬および非処方薬に含まれる一般的な成分であり、通常の用量であれば安全ですが、重度の過剰摂取は肝不全や死に至る可能性があります。 アセトアミノフェンを含有する製品を何種類も服用することによって、中毒を起こす場合があります。 血液中のアセトアミノフェンの量により、まったく症状がない場合から、嘔吐や腹痛、肝不全、さ... さらに読む )、ヘロインやフェンタニル(解毒剤はナロキソン)などのオピオイドがあります。毒のある生物に咬まれたり刺されたりした場合にも、解毒剤がある場合があります(ヘビによる咬み傷 ヘビによる咬み傷 米国の毒ヘビにはマムシ類(ガラガラヘビ、アメリカマムシ、ヌママムシ)とサンゴヘビがいます。 毒液の注入が重度の場合、咬まれた四肢の損傷、出血そして重要臓器へのダメージを引き起こす可能性があります。 症状が深刻な場合は解毒剤が投与されます。 ( 咬み傷と刺し傷に関する序も参照のこと。)... さらに読む ヘビによる咬み傷 を参照)。毒物にさらされても、必ずそれに対する解毒剤が必要になるわけではありません。多くの人が自然に回復します。しかし、中毒が重度の場合には、解毒剤で命が救われることがあります。

精神状態の評価

さらなる情報

役立つ可能性がある英語の資料を以下に示します。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。

  • 米国中毒情報センター協会(American Association of Poison Control Centers):米国に拠点を置く中毒センターで、無料で秘密厳守の中毒ヘルプライン(Poison Help Line、1-800-222-1222、24時間年中無休、米国のみ)を運営している【訳注:日本では、大阪中毒110番072-727-2499、または、つくば中毒110番029-852-9999】

  • 未使用の薬の廃棄:知っておくべきこと(Disposal of Unused Medicines: What You Should Know):未使用の薬の安全な廃棄方法についての情報

  • PoisonHelp.org:特定の毒物に関する、無料で秘密厳守のオンラインヘルプ

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