症状は段階的に発生し、嘔吐、下痢、腹痛から始まります。
数日後に肝不全が発生することがあります。
鉄中毒は、患者の病歴、症状、鉄の血中濃度に基づいて診断されます。
鉄中毒の患者は入院する必要があります。
(中毒の概要 中毒の概要 中毒とは、有害物質を飲み込んだり、吸い込んだり、皮膚や眼、または口や鼻などの粘膜に接触したときに生じる有害作用です。 中毒を起こす可能性のある物質としては、処方薬や市販薬、違法薬物、ガス、化学物質、ビタミン類、食べもの、キノコ類、植物、動物の毒などがあります。 ダメージを与えない毒物もありますが、重度の損傷を引き起こし、死をもたらす毒物も... さらに読む も参照のこと。)
鉄を含む錠剤は、ある種の貧血の治療に広く用いられています。鉄は多くの総合ビタミン剤にも含まれています。こうした錠剤を過剰に摂取すると(特に幼児の場合)、鉄中毒が起こることがあります。多くの家庭には鉄を含む成人用の総合ビタミン剤があるため、鉄の過剰摂取はよく起こります。しかし、鉄を含む小児用のチュアブル錠(噛み砕いて服用する錠剤)にはそれほど大量の鉄は入っていないため、容器に入っている全量でも、重篤な中毒を引き起こす量には至りません。ただし、純粋な鉄のサプリメントを過剰摂取すると、重篤な鉄中毒が起こることがあります。妊婦用ビタミン剤は鉄を多く含んでおり、小さな小児にとっては有毒です。
鉄中毒は、5歳未満の小児に発生する致死性中毒の原因となりえます。最初は胃や消化管が刺激され、ときには出血することもあります。数時間以内に、鉄が細胞に害を与え、細胞内の化学反応が阻害されます。数日以内には肝臓が損傷を受けます。回復してから数週間後に、以前受けた刺激によって胃などの消化管や肝臓に瘢痕(はんこん)が生じます。
鉄中毒の症状
重篤な鉄中毒では、通常、過剰摂取後6時間以内に症状が現れます。 鉄中毒の症状は典型的には5段階で発生します:
第1期(過剰摂取後6時間以内):嘔吐、吐血、下痢、腹痛、易刺激性、眠気などの症状が現れます。中毒が非常に重篤な場合は、呼吸や心拍が速くなり、昏睡、意識消失、けいれん発作、低血圧が起こることがあります。
第2期(過剰摂取後6~48時間):患者の状態が改善したようにみえます。
第3期(過剰摂取後12~48時間):重度の低血圧(ショック)、発熱、出血、黄疸、 肝不全 肝不全 肝不全は、肝機能が大幅に低下した状態です。 肝不全は、肝臓に損傷が起きる病気や物質により引き起こされます。 ほとんどの患者は 黄疸(皮膚と眼が黄色くなる)になり、疲れて脱力を覚え、食欲を失います。 他の症状には、腹部への体液の貯留( 腹水)や、皮下出血や出血が起きやすい傾向などがあります。 医師は通常、症状と身体診察、および血液検査の結果に基づいて、肝不全の診断を下すことができます。 さらに読む 、 代謝性アシドーシス アシドーシス アシドーシスには、酸の生産過剰による血液中の酸の蓄積または血液中からの重炭酸塩の過剰な喪失が原因で発生する代謝性アシドーシスと、肺機能や呼吸速度が低下し、血液中に二酸化炭素が蓄積して生じる呼吸性アシドーシスとがあります。 血液の酸性度は、酸を含む物質や酸を生産する物質を摂取した場合や、肺から十分な二酸化炭素が排出されない場合に上昇します。 代謝性アシドーシスの人では、吐き気、嘔吐、疲労がよく起こるほか、呼吸が通常より速く、深くなります。... さらに読む 、けいれん発作が生じます。
第4期(過剰摂取後2~5日):肝不全が発生し、ショック、出血、血液凝固異常で死亡する場合があります。血糖値が下がることもあります。錯乱や反応の鈍化(嗜眠)または昏睡がみられることもあります。
第5期(過剰摂取後2~5週間):胃や腸が瘢痕によって閉塞することがあります。胃や腸の瘢痕は、けいれん性の腹痛や嘔吐の原因となります。 後に、肝臓に重度の瘢痕化(肝硬変 肝硬変 肝硬変は、機能を果たさない瘢痕組織が大量の正常な肝組織と永久に置き換わり、肝臓の内部構造に広範な歪みが生じることです。肝臓が繰り返しまたは継続的に損傷を受けると、瘢痕組織が生じます。肝硬変はかつては不可逆的と考えられていましたが、最近の科学的証拠から一部の症例では可逆的であることが示唆されています。 肝硬変の最も一般的な原因は、慢性的な アルコール乱用、 慢性ウイルス性肝炎、... さらに読む )が起こることもあります。
鉄中毒の診断
鉄濃度などの血液検査
ときにX線検査
鉄中毒は、患者の病歴、症状、 代謝性アシドーシス アシドーシス アシドーシスには、酸の生産過剰による血液中の酸の蓄積または血液中からの重炭酸塩の過剰な喪失が原因で発生する代謝性アシドーシスと、肺機能や呼吸速度が低下し、血液中に二酸化炭素が蓄積して生じる呼吸性アシドーシスとがあります。 血液の酸性度は、酸を含む物質や酸を生産する物質を摂取した場合や、肺から十分な二酸化炭素が排出されない場合に上昇します。 代謝性アシドーシスの人では、吐き気、嘔吐、疲労がよく起こるほか、呼吸が通常より速く、深くなります。... さらに読む (毒された細胞から血流に放出された酸)の存在、および鉄の血中濃度に基づいて診断されます。大量の錠剤を飲んだ場合は、胃や腸のX線写真に錠剤が写ることがあります。
鉄中毒の治療
全腸管洗浄
キレート療法(重度の場合)
重い症状がある場合や、鉄の血中濃度が高い場合は入院が必要です。嘔吐した後でも大量の鉄が胃に残ることがあります。特殊なポリエチレングリコール溶液を、口から、または胃に挿入した管を通じて投与し、胃や腸の内容物を洗い流すこともありますが(全腸管洗浄)、有効性は明らかではありません。デフェロキサミンという薬は、血液中で鉄と結合し(キレート療法 キレート療法 生物学に基づく実践の1つであるキレート療法は、特定の分子が金属原子(カルシウム、銅、鉄、鉛など)に結合する化学反応を原理としています。エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などのキレート剤は金属と結合することで、それが体内から排泄されるようにします。このような薬剤は、 鉛中毒、 鉄の過剰摂取やその他の重金属中毒の治療のために、通常医療でよく使用されます。( 統合、補完、代替医療の概要も参照のこと。)... さらに読む と呼ばれます)、それによって鉄が尿中に排泄されます。この薬は中毒が重度の場合に静脈から投与されます。
さらなる情報
役立つ可能性がある英語の資料を以下に示します。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。
米国中毒情報センター協会(American Association of Poison Control Centers):米国に拠点を置く中毒センターで、24時間年中無休、無料で秘密厳守の中毒ヘルプライン(Poison Help Line、1-800-222-1222、米国のみ)を運営している【訳注:日本では、大阪中毒110番072-727-2499、または、つくば中毒110番029-852-9999】