子どもをもつことを考えているカップルは、妊娠前に医師や医療従事者に相談して、妊娠が望ましいかについて話し合うことができていれば理想的です。通常、妊娠は非常に安全なものです。しかし、妊娠中に重症化する病気もあります。また、遺伝性疾患をもつ子どもが生まれるリスクが高いカップルもいます。
カップルが妊娠を考え始めたら、女性は 葉酸 葉酸欠乏症 葉酸欠乏症はよくみられます。体は少量の葉酸しか蓄えていないため、葉酸が少ない食事を続けていると、数カ月以内に葉酸欠乏症になります。 生の葉野菜や柑橘類を十分に摂取しないと、葉酸欠乏症になることがあります。 貧血が生じて、疲労、蒼白、易怒性、息切れ、めまいが現れることがあります。 重度の欠乏症の場合、舌が赤くなって痛み、下痢となり、味覚が低下し、抑うつ、錯乱、認知症が生じることがあります。... さらに読む が含まれた総合ビタミン剤の1日1回の摂取を始めるべきです。妊娠可能年齢の女性に推奨される最低量は400マイクログラムですが、一部の専門家は、600~800マイクログラムというそれよりやや多い量を推奨しています。総合ビタミン剤などの市販の製品には多くの場合、これらの用量が含まれています。葉酸は、胎児に脊髄や脳の先天異常(神経管閉鎖不全 神経管閉鎖不全と二分脊椎 神経管閉鎖不全は脳、脊椎、脊髄に生じる先天異常の一種です。 神経管閉鎖不全により、神経損傷、学習障害、麻痺、死亡が起こることがあります。 血液検査、羊水検査、または超音波検査の結果に基づいて出生前から診断できます。 出生後、医師は身体診察を行い、追加の画像検査を行う場合もあります。 母親が妊娠前と第1トリメスター【訳注:日本でいう妊娠初期にほぼ相当】に葉酸を摂取することが、これらの異常の予防に役立つ可能性があります。 さらに読む )が生じるリスクを抑えます。神経管閉鎖不全の胎児を妊娠したことがある場合は、次の妊娠を考え始めたらすぐに、通常の推奨量よりかなり高用量(4000マイクログラム)の葉酸の摂取を始めるようにします。1,000マイクログラム以上の用量は処方せんがないと入手できません。
カップルが妊娠を試みたいと決断した場合は医師に相談して、できるだけ健康的な妊娠経過を送ることができるようにします。こうした機会に、女性の健康や発育する胎児の健康を損なうおそれのある要因について医師に聞いておくべきです。
妊娠に際して避けるべき要因や状況としては以下のものがあります。
喫煙や飲酒
副流煙にさらされる状態(胎児に害を与える可能性がある)
室内のみで飼育されていて他のネコと接触のない場合を除いて、ネコ用トイレもしくはネコの便に接触すること(こうした接触から、原虫の感染が胎児の脳に損傷を及ぼしかねない トキソプラズマ症 トキソプラズマ症 トキソプラズマ症は、単細胞の寄生虫であるトキソプラズマ原虫(Toxoplasma gondii)によって引き起こされる感染症です。ネコの糞に含まれるトキソプラズマのシストを知らずに摂取したり、汚染された肉を食べたりすることで感染が起きます。通常は無症状ですが、一部の患者ではリンパ節の腫れ、発熱、漠然とした体調の悪さがみられ、ときにはのどの痛みまたはかすみ目や眼の痛みが現れることもあります。エイズまたは他の病気によって免疫機... さらに読む に感染することがある)
長時間高温にさらされること
化学物質や塗料の蒸気にさらされること
水痘 水痘(水ぼうそう) 水痘とは、水痘帯状疱疹ウイルスによる、感染力が非常に強い ウイルス感染症で、かゆみのある特徴的な発疹が現れます。発疹は小さな斑点で、盛り上がったり、水疱(水ぶくれ)を形成したり、かさぶたができたりします。 水痘はほとんどが小児に起こりますが、水痘ワクチンのおかげで発生数は大幅に減少しています。 発疹が現れる前に、軽い頭痛、中等度の発熱、食欲低下、全身のけん怠感がみられます。 診断は症状(特に発疹)に基づいて下されます。... さらに読む や 帯状疱疹 帯状疱疹 帯状疱疹(たいじょうほうしん)とは、 ウイルス感染症による痛みのある皮疹で、水痘を引き起こす水痘帯状疱疹ウイルスが再活性化することで生じます。 ウイルスが再活性化する原因は分からないことが多いのですが、病気や薬によって免疫機能が低下したときに起こる場合があります。 帯状疱疹では痛みを伴う水疱の発疹が現れ、患部に慢性痛が生じることもあります。 典型的な水疱が皮膚に帯状に現れると、帯状疱疹の診断が下されます。... さらに読む (たいじょうほうしん)の人との接触(妊婦が水痘にかかったことがある場合や水痘の免疫があることが検査で分かっている場合を除く)
水痘や帯状疱疹はヘルペスウイルスから生じます。分娩時にヘルペスウイルスが胎児に感染して、胎児が重い病気にかかることがあります。また、ヘルペスウイルスから母体に肺炎が生じることがあり、ときに重症化することがあります。
これらの要因を妊娠前に把握し対処しておくと、妊娠中に問題が生じるリスクを抑えるのに役立ちます(ハイリスク妊娠 ハイリスク妊娠の危険因子 危険因子には妊娠前から存在するものがあり、そのような危険因子としては以下のものがあります。 特定の 身体的な特徴(年齢や体重など) 帝王切開が必要となったなど、 過去の妊娠時の問題 妊娠前から存在する特定の病気 胎児に害のある物質への 曝露 さらに読む を参照)。食生活や社会生活、情緒な問題、医学的な問題で不安がある場合も医師に相談します。
妊娠前に医師や医療従事者などの診察を受けて、 風疹ワクチン 麻疹・ムンプス・風疹混合ワクチン 麻疹・ムンプス・風疹(MMR)混合ワクチンは、この3種の重篤なウイルス感染症を予防するためのワクチンです。このワクチンには、麻疹(はしか)、ムンプス(流行性耳下腺炎、おたふくかぜ)、風疹の生きたウイルスが弱毒化されて含まれています。これらのいずれかの病気に対する予防が必要な人は、他の2つに対する予防も必要になることから、この混合ワクチンが使用されています。これらのワクチンを個別に接種することはできません。... さらに読む などの必要な予防接種を受けておくこともできます。まだ葉酸を摂取していない場合には、1日当たりの推奨量(RDA)、または神経管閉鎖不全の胎児を妊娠したことがある場合には高用量の葉酸が含まれた妊婦用の総合ビタミン剤を、医師に処方してもらうことができます。必要であれば、遺伝性の遺伝子疾患をもつ子どもが生まれるリスクが高いかどうかを知るために、女性とパートナーは 遺伝子スクリーニング 妊娠前の遺伝子スクリーニング 遺伝子スクリーニングは、遺伝する遺伝性疾患をもつ子どもが生まれるリスクが高いかどうかを判断するために行う検査です。遺伝する遺伝性疾患とは、次の世代へ受け継がれる 染色体または遺伝子の病気です。 スクリーニングではカップルの家族歴を評価し、必要に応じて血液や組織のサンプル(頬の内側から採取した細胞など)を分析します。 すべてのカップルが遺伝子スクリーニングを受けることができますが、特に推奨されるのは以下の場合です。... さらに読む を受けることができます。
初回の健診
妊娠が確認されたら、できれば妊娠6~8週に身体診察を受けるべきです。このときに妊娠期間と出産予定日ができる限り正確に割り出されます。
医師は、女性が現在かかっている病気とかかったことのある病気、使用している薬剤、および過去の妊娠の詳細(糖尿病 妊娠中の糖尿病 妊娠前から糖尿病にかかっている女性の場合、糖尿病にかかっている期間や、高血圧や腎障害などの糖尿病の合併症がみられるかどうかによって、妊娠中に合併症を起こすリスクは異なります。妊娠は糖尿病(1型および2型)を悪化させる傾向がありますが、糖尿病の合併症(眼、腎臓、神経の障害)を誘発したり悪化させたりすることはありません。 ( 糖尿病も参照のこと。) 妊婦の少なくとも5%が妊娠中に糖尿病を発症します。これを妊娠糖尿病といいます。妊娠糖尿病は以... さらに読む 、 流産 流産 流産とは、妊娠20週未満で胎児が失われることです。 胎児側の問題(遺伝性疾患や先天異常など)によっても母体側の問題(生殖器の構造的異常、感染症、コカインの使用、飲酒、喫煙、けがなど)によっても流産が起こりますが、多くの場合、原因は不明です。 出血や筋けいれんが起こることがありますが、特に妊娠して週数が経過している場合にはよく起こります。 医師は子宮頸部を診察し、通常は超音波検査も行います。... さらに読む 、 先天異常 先天異常の概要 先天異常あるいは先天奇形とは、出生前の段階で生じた身体的な異常のことです。それらの異常は通常、出生時か生後1年以内に明らかになります。 多くの先天異常は原因不明ですが、感染、遺伝的要因、そして特定の環境要因が先天異常の発生リスクを高めます。 出生前の段階では、母親がもつ危険因子と超音波検査の結果のほか、ときに血液検査、... さらに読む などの問題を含む)について質問します。多くの医師は定期的に ドメスティックバイオレンス ドメスティックバイオレンス ドメスティックバイオレンスは、同居者間の身体的、性的虐待、または心理的虐待です。これには親密なパートナーによる暴力が含まれますが、これは現在または以前のセックスパートナーや配偶者による身体的、性的虐待、または心理的虐待を指します。 結果として、身体的な外傷、心理的な問題、社会的な孤立、失業、経済的な問題などが起き、さらには死に至る場合もあ... さらに読む (同居者から精神的、身体的、または性的虐待を受けていないかどうか)について女性に質問します。
妊娠して初めての身体診察は、かなり詳しく行われます。具体的には以下のものがあります。
体重、身長、血圧を測定します。
足首にむくみがないか調べます。
血液検査:採血して検査を行います。血液検査では血算や、感染症(梅毒、肝炎、ヒト免疫不全ウイルス[HIV])の有無、風疹と水痘に対する免疫の有無などを調べます。血液型の検査ではRh血液型(プラスかマイナス)も調べます。
尿検査:尿のサンプルを採取して分析します。
性感染症検査 性感染症のスクリーニング検査 医師は、 スクリーニング検査を勧めることがあります。スクリーニング検査とは、症状がない人に対して病気の有無を調べるために行われる検査です。女性に生殖器系に関連する症状(婦人科疾患の症状)がある場合、症状を引き起こしている病気を特定するための検査( 診断目的の検査)が必要になることがあります。 婦人科領域では以下の2つのスクリーニング検査が重要です。 子宮頸がん(子宮の下部のがん)の有無を調べるためのパパニコロウ検査などの細胞診またはヒト... さらに読む :子宮頸部細胞診の直後に子宮頸部から組織サンプルをもう1回採取して、淋菌感染症やクラミジア感染症などの性感染症の有無を調べる検査を行います。
その他の検査は妊婦の状態に応じて行います。一部の女性(甲状腺の病気、糖尿病、不妊症、流産の既往がある女性など)では、甲状腺ホルモンが測定される場合があります。
妊婦の血液型がRhマイナスであれば、Rh因子に対する抗体の有無を調べます(Rh式血液型不適合 胎児または新生児の溶血性疾患 Rh式血液型不適合は、母体がRhマイナスで胎児がRhプラスの場合に起こります。 Rh式血液型不適合により胎児の赤血球が破壊されうるため、重症の貧血が起こることがあります。 胎児の母親がRhマイナスで父親がRhプラスの場合、胎児に貧血の徴候がないか定期的に検査を行います。 貧血が疑われる場合には胎児に輸血が行われます。 胎児に問題が起こらないよう、妊娠28週頃、大量出血が生じた後、分娩後、および特定の処置を行った後に、血液型がRhマイナス... さらに読む を参照)。このような妊婦では、妊婦のRhマイナスの血液がRhプラスの血液と接触すると、免疫系がRh因子に対する抗体を生産します(過去のRhプラスの胎児の妊娠時など)。この抗体(Rh抗体)がRhプラスの胎児の血球を破壊する可能性があり、胎児に重大な問題を引き起こします(死亡することさえあります)。妊婦の血液中の抗体が早期に検出されれば、胎児を守る処置を取ることができます。血液型がRhマイナスのすべての女性には、妊娠28週にRh(D)免疫グロブリンを筋肉内注射により投与します。また、妊婦の血液と胎児の血液が接触した可能性がある場合(例えば性器出血、羊水穿刺、分娩の後など)には必ず注射を行います。Rh(D)免疫グロブリンは、胎児の血球が破壊されるリスクを低下させます。
アフリカ系の女性の場合、以前に調べたことがなければ、 鎌状赤血球形質を有しているかどうか、もしくは鎌状赤血球症 鎌状赤血球症 鎌状赤血球症は、鎌状(三日月形)の赤血球と、異常な赤血球の過剰破壊による慢性貧血を特徴とする、遺伝性のヘモグロビン(酸素を運搬する赤血球内のタンパク質)の遺伝子異常です。 必ず貧血がみられ、ときとして黄疸がみられます。 貧血、発熱、息切れなどが悪化し、長管骨、腹部、胸部などに痛みを伴うと、鎌状赤血球症の疼痛発作(症状が急速に悪化する危険な状態)が疑われます。 電気泳動法と呼ばれる特別な血液検査を使用して、鎌状赤血球症かどうかを判定するこ... さらに読む がないかどうかを調べる検査を行います。結核について調べる皮膚テスト(ツベルクリン検査 診断 結核は、空気感染する細菌である結核菌(Mycobacterium tuberculosis)によって引き起こされる、感染力の強い慢性感染症です。結核は肺を侵しますが、ほぼすべての臓器に影響が及ぼす可能性があります。 結核に感染するのは、主に活動性結核の患者によって汚染された空気を吸い込んだ場合です。... さらに読む )はすべての女性が受けておくとよいでしょう。
フォローアップ健診
初回の健診の後は、以下のように診察を受けます。
妊娠28週までは4週間毎
36週までは2週間毎
その後は出産まで毎週
通常、毎回体重と血圧を記録し、子宮の大きさを測定して、胎児が順調に成長しているか確認します。妊婦の足首にむくみがないかを調べます。
胎児の心拍も確認します。心拍は手持ち式の ドプラ超音波 ドプラ超音波検査 超音波検査は、周波数の高い音波(超音波)を用いて内臓などの組織の画像を描出する検査です。プローブと呼ばれる装置で電流を音波に変換し、この音波を体の組織に向けて発信すると、音波は体内の構造で跳ね返ってプローブに戻ります。これは再度、電気信号に変換されます。コンピュータが、この電気信号のパターンをさらに画像に変換してモニター上に表示するとともに、コンピュータ上のデジタル画像として記録します。X線は使用しないため、超音波検査で放射線にさらされ... さらに読む 装置で通常は妊娠10~11週に確認できます。心拍が確認されれば、その後の健診毎に、心拍が正常であるかチェックします。
健診では毎回、尿検査で糖を調べます。尿中に糖が多く出ると糖尿病が疑われます。尿中に糖が認められた場合はできるだけ早く血液検査を行って、糖尿病がないかどうか調べます。尿中に糖が認められなくても、妊娠中に発生するタイプの糖尿病(妊娠糖尿病 妊娠糖尿病 妊娠前から糖尿病にかかっている女性の場合、糖尿病にかかっている期間や、高血圧や腎障害などの糖尿病の合併症がみられるかどうかによって、妊娠中に合併症を起こすリスクは異なります。妊娠は糖尿病(1型および2型)を悪化させる傾向がありますが、糖尿病の合併症(眼、腎臓、神経の障害)を誘発したり悪化させたりすることはありません。 ( 糖尿病も参照のこと。) 妊婦の少なくとも5%が妊娠中に糖尿病を発症します。これを妊娠糖尿病といいます。妊娠糖尿病は以... さらに読む )について通常すべての妊婦を検査します。この血液検査は24~28週に行われます。女性が一定量のブドウ糖を含む液体を飲んで1時間後に血糖値(血液中のブドウ糖濃度)を測定します(ブドウ糖負荷試験)。妊娠糖尿病の危険因子がある場合は、この検査をもっと早い時期に行います(できれば妊娠12週前)。
妊娠糖尿病の危険因子としては以下のものがあります。
重度の過体重(約110キログラム以上)
過去の妊娠時の妊娠糖尿病または巨大児(4500g以上)
過去の妊娠時の原因不明の流産
第1度近親者(母親や姉妹)の糖尿病
長期間にわたって尿中に糖が出たことがある
リスクがある女性の初回の検査結果が正常の場合には、妊娠24~28週に再検査します。
健診では毎回尿検査を行って、タンパク尿が認められるかどうかも調べます。タンパク尿は 妊娠高血圧腎症 妊娠高血圧腎症および子癇 妊娠高血圧腎症は、妊娠20週以降に新たに発症する高血圧または既存の高血圧の悪化で、過剰な尿タンパク質を伴うものです。子癇(しかん)は妊娠高血圧腎症の女性に起こるけいれん発作で、ほかに原因がないものをいいます。 妊娠高血圧腎症によって胎盤剥離や早産が起こりやすくなり、出生直後の新生児に問題が生じるリスクが高まります。 妊婦の手、手指、首、足がむくむことがあり、重度の妊娠高血圧腎症を治療しないと、けいれん発作(子癇)や臓器損傷が起こることが... さらに読む (妊娠中に生じる高血圧の一種)を示唆することがあります。
女性が以下に該当する場合、甲状腺の病気の有無を調べるために血液検査を行います。
甲状腺の病気の症状がみられる
中等度から重度のヨウ素欠乏がみられる地域の出身である
近親者に甲状腺の病気をもっている人がいる
甲状腺の病気の既往がある
1型糖尿病である
不妊症、早産、流産などの既往がある
頭頸部への放射線療法歴
重度の肥満
30歳以上の人
超音波検査
超音波検査 超音波検査 超音波検査は、周波数の高い音波(超音波)を用いて内臓などの組織の画像を描出する検査です。プローブと呼ばれる装置で電流を音波に変換し、この音波を体の組織に向けて発信すると、音波は体内の構造で跳ね返ってプローブに戻ります。これは再度、電気信号に変換されます。コンピュータが、この電気信号のパターンをさらに画像に変換してモニター上に表示するとともに、コンピュータ上のデジタル画像として記録します。X線は使用しないため、超音波検査で放射線にさらされ... さらに読む は最も安全な画像検査であり、ほとんどの医師は、胎児の正常な成長を確認し、出産予定日が正しいことを裏付けるために、妊娠中に少なくとも1回は行うべきであると考えています。超音波検査は通常、妊娠16~20週の間に行われます。
超音波検査では、超音波を発生させる装置(プローブ)を妊婦の腹部にあてます。音波は画像に変換されてモニター画面に映し出されます。とりわけ妊娠の初期では、腟内にプローブを入れて超音波検査を行うことがあります。超音波検査では高画質の画像が得られ、実際に胎児が動いている様子をみることもできます。医師は超音波検査によって多くの有用な情報が得られ、これを見て妊婦も安心できます。
超音波検査は以下のためにも利用できます。
胎児の心臓の拍動の様子をとらえ、胎児の生存を確認する(早ければ妊娠5週から)
胎児の性別を判別する(早ければ妊娠14週から)
多胎妊娠であるかどうかを確認する
胎盤の位置の異常(前置胎盤 前置胎盤 前置胎盤とは、胎盤が子宮上部ではなく子宮下部で子宮頸部の開口部を覆うよう付着することです。 妊娠の後期に、痛みを伴わない、ときに大量の出血が生じることがあります。 通常は超音波検査で診断を確定できます。 床上安静だけでよい場合もありますが、重度の出血が続く場合や、胎児や妊婦に問題が生じた場合には、帝王切開が行われます。 前置胎盤などの妊娠合併症は、妊娠中だけに発生する問題です。母体に影響を及ぼすもの、胎児に影響を及ぼすもの、または母子と... さらに読む )や胎児を包んでいる袋(胎嚢)に液体が過剰にたまっていたり(羊水過多 羊水量が多すぎる 羊水とは、子宮内の胎児の周囲を満たしている液体のことです。羊水と胎児は羊膜腔と呼ばれる膜の中に入っています。羊水の問題には、以下のものがあります。 妊娠期間に対して羊水の量が多すぎる 妊娠期間に対して羊水の量が少なすぎる 羊水、羊膜腔、または胎盤の感染( 羊膜内感染と呼ばれる)。 羊水過多や羊水過少などの妊娠合併症は、妊娠中だけに発生する問題です。母体に影響を及ぼすもの、胎児に影響を及ぼすもの、または母子ともに影響を及ぼすものがあり、妊... さらに読む )、 胎児の向きの異常 胎向と胎位の異常 胎向とは、胎児が後ろ(母親の背中の方)を向いているか、前を向いているか(顔が上向きか)という胎児の向きのことです。 胎位とは、胎児の体のうち最初に産道を通る部分(先進部)を表します。通常、頭が先進しますが、ときに殿部や肩が下になることもあります。 最も一般的で安全な胎向と胎位の組合せは次のような状態です。 頭が下になっている(頭位) 胎児が後ろを向いている さらに読む がないかを確認する
妊娠時期を判断して妊娠が正常に経過しているかを確認する
先天異常を発見する(場合による)
胎児の首の後ろ付近の液体がたまった部分(項部透明帯[NT]と呼ばれる)を測定することにより、 ダウン症候群 ダウン症候群(21トリソミー) ダウン症候群は、余分な21番染色体によって引き起こされる染色体異常症の一種で、知的障害と様々な身体的異常がみられます。 ダウン症候群は、21番染色体が余分にあることで発生します。 ダウン症候群の小児では、発育の遅れ、精神発達の遅れ、特異的な頭部と顔貌、しばしば低身長がみられます。 出生前の段階では、ダウン症候群は超音波検査や母親の血液検査の結果から疑われ、 絨毛採取や 羊水穿刺という検査で確定されます。... さらに読む (およびその他いくつかの疾患)の徴候がないか調べる
出生前診断などの処置を行う際、器具を目的の位置に誘導する
出産を控えた時期には、胎児を包む羊水で満たされた卵膜が早く破れてしまう前期破水の確認にも、超音波検査を用いることがあります。超音波検査では帝王切開が必要かどうかを医師が判断するための情報も得られます。
その他の画像検査
妊娠中は通常、X線検査が行われることはありませんが、必要が生じた場合は安全に行うことができます。X線検査が必要になった場合は、妊婦の下腹部に鉛の入った遮へい板を付けて子宮を覆い、胎児を放射線から守ります。
予防接種
インフルエンザ インフルエンザワクチン インフルエンザウイルスワクチンは インフルエンザの予防に役立ちます。米国では、A型とB型の2種類のインフルエンザウイルスが定期的にインフルエンザの季節的流行を引き起こしています。どちらの種類にも、多くのウイルス株が存在します。インフルエンザの大流行を引き起こすウイルス株は毎年変わります。このため、毎年新しいワクチンが必要になります。それぞれの年のワクチンは、研究者が翌年に流行すると予測した3~4種のウイルス株を標的とします。... さらに読む の流行期には、すべての妊婦が予防接種を受けることを専門家は勧めています。
必要な場合、妊婦は B型肝炎ワクチン B型肝炎ワクチン B型肝炎ワクチンは B型肝炎とその合併症( 慢性肝炎、 肝硬変、 肝臓がん)の予防に役立ちます。 一般に、B型肝炎は A型肝炎より重篤で、死に至ることもあります。症状は軽度のこともあれば、重度のこともあります。食欲減退、吐き気、疲労などがみられます。5~10%の患者ではB型肝炎が慢性化し、肝硬変や肝臓がんに進行することがあります。 詳細については、CDCによるB型肝炎ワクチン説明書(Hepatitis... さらに読む の接種を受けることができます。
専門家は、女性がワクチンを完全に受けている場合でも、 ジフテリア・破傷風・百日ぜき混合ワクチン(Tdap) ジフテリア・破傷風・百日ぜき混合ワクチン ジフテリア・破傷風・百日ぜき混合ワクチンは、この3つの病気を予防するためのワクチンです。 ジフテリアにかかると、通常はのどや口の中の粘膜に炎症が起きます。ジフテリアの原因菌は毒素を放出し、心臓、腎臓、神経系を侵すことがあります。ジフテリアはかつて小児の死因の上位を占めていました。 破傷風(開口障害)では、細菌が作る毒素のために重度の筋肉のけいれんが起こります。破傷風菌は通常、傷口から体内に入ります。... さらに読む の追加接種を妊娠20週以降(可能であれば27~36週)または分娩後に受けることを推奨しています。
COVID-19ワクチン 治療 新型コロナウイルス感染症、すなわちCOVID-19(コビット・ナインティーン)は、SARSコロナウイルス2(SARS-CoV-2)と命名されたコロナウイルスの一種によって引き起こされ、重症化する可能性がある急性呼吸器疾患です。 COVID-19の症状はかなり多彩です。 COVID-19の診断には2種類の検査法が用いられます。... さらに読む については、妊婦を対象とした具体的な評価は行われていませんが、専門家の推奨としては、ワクチン接種に適格であり、かつワクチンの成分に対するアレルギーなどのワクチンに対する禁忌がない妊婦はCOVID-19ワクチンの接種を受けてもよいとしています。米国食品医薬品局(FDA)によって完全に承認されたワクチンはまだありませんが、一部のワクチンが緊急使用として許可されています。(米国疾病予防管理センター:COVID-19ワクチンの接種[Centers for Disease Control and Prevention: COVID-19 Vaccination]も参照のこと。)
妊娠中は、 麻疹・ムンプス(おたふくかぜ)・風疹混合ワクチン 麻疹・ムンプス・風疹混合ワクチン 麻疹・ムンプス・風疹(MMR)混合ワクチンは、この3種の重篤なウイルス感染症を予防するためのワクチンです。このワクチンには、麻疹(はしか)、ムンプス(流行性耳下腺炎、おたふくかぜ)、風疹の生きたウイルスが弱毒化されて含まれています。これらのいずれかの病気に対する予防が必要な人は、他の2つに対する予防も必要になることから、この混合ワクチンが使用されています。これらのワクチンを個別に接種することはできません。... さらに読む および 水痘ワクチン 水痘ワクチン 水痘ワクチンは、水痘帯状疱疹ウイルスが引き起こす非常に伝染しやすい感染症である、 水痘(水ぼうそう)の予防に役立ちます。水痘にかかると、皮膚に赤い発疹ができ、その後かゆみのある小さな水疱が生じます。場合によっては、脳、肺、心臓に感染し、重篤な病気や死亡の原因になることがあります。水痘が治った後もウイルスは体内に残ります。何年か後に再び活性化して、 帯状疱疹を引き起こすことがあります。... さらに読む の接種を受けるべきではありません。