先天異常の概要

執筆者:Nina N. Powell-Hamilton, MD, Sidney Kimmel Medical College at Thomas Jefferson University
レビュー/改訂 2022年 4月
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先天異常あるいは先天奇形とは、出生前の段階で生じた身体的な異常のことです。それらの異常は通常、出生時か生後1年以内に明らかになります。

  • 多くの先天異常は原因不明ですが、感染、遺伝的要因、そして特定の環境要因が先天異常の発生リスクを高めます。

  • 出生前の段階では、母親がもつ危険因子と超音波検査の結果のほか、ときに血液検査、羊水穿刺絨毛採取の結果に基づいて診断されます。

  • 出生後の段階では、身体診察、画像検査、および血液検査の結果に基づいて診断されます。

  • 一部の先天異常は、妊娠中に良好な栄養状態を維持し、飲酒を控え、放射線を浴びないようにし、特定の薬剤の使用を控えることによって、予防することができます。

  • 先天異常には、手術で治療できるものや、薬で管理できるものもあります。

先天異常は、以下のように、あらゆる臓器のあらゆる部分に生じる可能性があります。

一部の先天異常は、ほかの先天異常より多くみられます。

米国では、先天異常は乳児の死亡原因の上位を占めていて、胎児死亡を引き起こすものもあり、流産死産の原因になっています。

先天異常は5歳までの小児の約7.5%にみられますが、それらの多くは軽微なものです。大きな先天異常は新生児の約3~4%でみられます。

複数の先天異常が1人の小児にみられることもあります。

先天異常の原因と危険因子

先天異常はとても多くみられますが、1つの受精卵が1人の人間を構成する膨大な数の分化した細胞にまで成長していく過程の複雑さを考えれば、これは驚くことではありません。大半の先天異常は原因不明ですが、特定の遺伝的要因と環境要因は先天異常が発生する可能性を高めます。そのような要因としては、放射線への曝露、特定の薬剤(表「妊娠中に問題を引き起こす可能性がある主な薬剤」を参照)、アルコール栄養不良母親の特定の感染症遺伝性疾患などがあります。

なかには回避できるリスクもあります。妊婦が健康的な生活習慣をどれだけ厳格に守ろうとも起きてしまう先天異常もあります。多くの先天異常は、女性が自分の妊娠に気づく前に発生します。

有害物質(催奇形物質)への曝露

催奇形物質とは、先天異常を引き起こす、あるいはその可能性を高める物質のことです。催奇形因子としては以下のものがあります。

  • 放射線(X線を含む)

  • 特定の薬剤

  • 毒性物質(アルコールを含む)

催奇形物質にさらされた妊婦でも、その大半は異常のない新生児を出産します。先天異常が起こるかどうかは、妊婦が催奇形物質にさらされた時期と量と期間によって決まります(妊娠中の曝露を参照)。

催奇形物質にさらされると、ちょうどそのときに成長している胎児の臓器が最も大きく影響を受けます。例えば、胎児の脳のある部分が成長する時期に催奇形物質にさらされると、この決定的な時期の前や後にさらされる場合よりも、その部分に異常が起きる可能性が高くなります。

栄養

胎児を健康な状態に保つには、栄養のある食事をとり続けることが必要です。 例えば、食事中の葉酸(葉酸塩)が不足すると、胎児に二分脊椎や神経管閉鎖不全などの脳や脊髄の異常が引き起こされる可能性が高くなります。口唇裂(上唇が分離している状態)または口蓋裂(口の中の天井に裂け目がある状態)が発生する可能性も高くなります。

母親の肥満も神経管閉鎖不全のリスクを高めます。

遺伝および染色体に関する要因

染色体遺伝子に異常が生じることがあります。それらの異常は両親から遺伝しますが、親自身にその異常の影響が出ている場合もあれば、親はその異常を引き起こす遺伝子のキャリアである場合もあります(染色体異常症の概要を参照)。キャリアとは、ある病気の原因となる異常遺伝子をもっているものの、その病気の症状が現れていない人のことです。

しかし、多くの先天異常は受精卵に生じた新たな染色体異常や遺伝子変異によって引き起こされるものであり、両親から遺伝したものではありません。

遺伝的要因によって生じる先天異常は、多くの場合、体の1カ所だけの明らかな奇形にとどまらず、ほかの部分にも影響を及ぼします。

感染症

妊婦がある種の感染症にかかると、先天異常の原因となります(妊娠中の感染症を参照)。感染症が先天異常を引き起こすかどうかは、その感染症の影響が胎児に及ぶ時点での胎児の週齢によります。

先天異常を引き起こすことが多い感染症としては、以下のものがあります。

これらの感染症の一部は、成人では症状がわずかであったり、無症状であったりすることがあるため、女性が感染しても気づかない可能性があります。

先天異常の診断

  • 出生前の段階では、超音波検査のほか、ときにMRI検査、血液検査、羊水穿刺、または絨毛採取

  • 出生後の段階では、身体診察、超音波検査、CT検査、MRI検査、および血液検査

出生前

出生前の段階では、母親が胎児に先天異常の起きるリスクが高い状態にあるかどうかを医師が評価します(出生前診断)。妊婦に以下の危険因子がみられる場合、可能性が高くなります。

  • 高齢

  • 流産または死産を何度も経験している

  • 染色体異常または先天異常のある子どもをもったことがある、もしくは乳児期に原因不明で死亡した子どもがいる

このような妊婦には、胎児が正常に発育しているかどうかを調べるためのモニタリングと特別な検査が必要になります。

出生前に先天異常が診断されるケースが増えてきています。

胎児の超音波検査は、妊娠中によく行われる検査です。適応があれば、胎児のMRI検査が行われることもあります。これらの画像検査により、しばしば特定の先天異常を発見することができます。

血液検査が役に立つ場合もあります。例えば、母親の血液中のアルファ-フェトプロテイン値が高い場合、脳、脊髄、または他の特定の臓器に欠損がある可能性があります(第2トリメスター【訳注:日本でいう妊娠中期にほぼ相当】のスクリーニングを参照)。最近では、細胞フリー胎児DNA分析と呼ばれる検査法が用いられています。この検査では、妊婦の血液サンプルを分析することで、胎児に特定の遺伝性疾患がないかを確認できます。この検査は、妊婦の血液中にはごく少量ながら胎児由来のDNA(遺伝物質)が含まれているという事実に基づいています。この検査は非侵襲的出生前スクリーニング(NIPS)と呼ばれています。非侵襲的出生前スクリーニングを行うことで、21トリソミー(ダウン症候群)、13トリソミー18トリソミーや、その他特定の染色体異常のリスクが高いことを特定することができます。医師は通常、何らかの遺伝子異常のリスクが高いことが判明すれば、さらなる検査を行います。

確定診断には、羊水穿刺(胎児の周囲を満たしている液体[羊水]を採取すること)または絨毛採取(発育中の胎児を包む胎嚢[たいのう]から組織を採取すること)が役に立つことがあります。これらの処置中に採取されたサンプルに対して遺伝子検査を行います。

出生後

出生後には、医師が新生児の身体診察を行います。この診察中には、新生児の皮膚、頭頸部、心臓と肺、腹部と性器を調べ、神経系と反射を評価します。一部の新生児には、特定の病気を示唆する身体的な外見が認められます。

米国では、ほとんどの新生児に対して、いくつかの代謝性疾患遺伝性疾患を検出するためのスクリーニング血液検査が決まって実施されています。

そして身体診察とスクリーニング検査の結果に応じて、超音波検査CT検査MRI検査などの画像検査を行う場合があります。

先天異常の治療

  • ときに手術または薬剤

異常な染色体や遺伝子を修正することはできませんが、

一部の先天異常は、手術で治せるか、影響を軽減できる可能性があります。それ以外の先天異常については、薬剤や手術によって症状を管理することができます。

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