染色体異常症と遺伝子疾患の概要

執筆者:Nina N. Powell-Hamilton, MD, Sidney Kimmel Medical College at Thomas Jefferson University
レビュー/改訂 2021年 12月
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やさしくわかる病気事典

    染色体は、細胞の中にあって複数の遺伝子が記録されている構造体です。

    遺伝子とは、細胞の種類に応じて機能する特定のタンパク質の設計情報が記録された領域で、物質としてはDNA(デオキシリボ核酸)で構成されています(遺伝学についての考察は see page 遺伝子と染色体)。

    人間の正常な細胞は、精子と卵子を除いて、いずれも23対、計46本の染色体をもっています。精子と卵子は、各ペアにつき1本の染色体しかもたないため、全体で23本の染色体をもっています。それぞれの染色体には数百から数千個の遺伝子が含まれています。

    性染色体は、23対ある染色体のペアのうちの1つです。性染色体には2種類のものがあり、それぞれX染色体およびY染色体と呼ばれています。女性は典型的には2本のX染色体をもち(XX)、男性は典型的にはX染色体とY染色体を1本ずつもっています(XY)。

    DNAの構造こうぞう

    DNA(デオキシリボかくさん)は細胞さいぼう遺伝いでん物質ぶっしつで、細胞核さいぼうかくない染色体せんしょくたいとミトコンドリアにあります。

    特定とくてい細胞さいぼうたとえば、精子せいし卵子らんし赤血球せっけっきゅう)をのぞき、細胞核さいぼうかくには23つい染色体せんしょくたい格納かくのうされています。1ぽん染色体せんしょくたいには、たくさんの遺伝子いでんしふくまれています。遺伝子いでんしとは、DNAのうち、タンパクしつをつくるためのコードがふくまれている部分ぶぶんのことです。

    DNA分子ぶんしながいコイルじょう二重にじゅうらせんで、らせん階段かいだんています。DNAには、とう(デオキシリボース)とリンさんからできた2ほんくさり(ストランド)があり、4種類しゅるい塩基えんきたいになって、階段かいだんのステップのようにくさりあいだをつないでいます。ステップは、アデニンとチミンのたいと、グアニンとシトシンのたい形成けいせいされます。かく塩基対えんきつい水素すいそ結合けつごう結合けつごうしています。遺伝子いでんし塩基えんき配列はいれつ構成こうせいされます。3つの塩基えんきからなる配列はいれつで、1つのアミノさん(アミノさんはタンパクしつをつくる成分せいぶんです)かそれ以外いがい情報じょうほうをコードしています。

    染色体異常

    染色体異常も参照のこと。)

    染色体の異常は、性染色体を含むすべての染色体で起こります。染色体異常では以下の要素に異常がみられます。

    • 染色体の数

    • 染色体の構造

    比較的大きな異常は、染色体分析や核型分析と呼ばれる検査の際に顕微鏡で観察することができます。比較的小さな染色体異常は、染色体をスキャンして過剰部分や欠失部分を探し出す専用の遺伝学的検査を用いることで、検出が可能です。そのような検査としては、染色体マイクロアレイ解析(CMA)や蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)などがあります。(次世代シークエンシング技術も参照のこと。)

    数的異常とは、染色体が1本以上余分にある場合(例えば、余分な染色体が1本の場合はトリソミー、2本の場合はテトラソミーといいます)と、1本欠けている場合(モノソミー)です。トリソミーは23対ある染色体のいずれにも発生しますが、最も多いのは21トリソミー(ダウン症候群)、13トリソミー18トリソミーで、これらは男児、女児のどちらにも発生します。これらの異常は、核型分析の際に顕微鏡で観察することができます。

    妊娠する女性の年齢が高くなるほど、胎児に染色体の過剰や欠失が発生する可能性が高くなります( see table 染色体異常をもった子どもが生まれるリスク*)。これは男性には当てはまりません。 男性は年齢が高くなっても、染色体異常をもつ子どもができる可能性は、ごくわずかに上がるだけです。

    構造異常とは、染色体の一部に異常がある場合です。ある染色体の一部または全体が別の染色体と誤って結合する異常(転座といいます)もあります。染色体の一部が欠けている場合(欠失― see heading on page 染色体欠失症候群の概要)や、重複している場合もあります。

    染色体異常の種類によっては、生まれる前の胚や胎児の段階で死に至ります。また、知的障害低身長、けいれん発作、心臓の病気、口蓋裂などを引き起こす異常もあります。

    遺伝子異常

    ある遺伝子のDNAを構成する塩基のペア(図DNAの構造を参照)に変化が起きると、その遺伝子の変異体が発生して、遺伝子の働き方に影響が生じることがあります。それらの変化は染色体の構造に影響を及ぼすものではないため、核型分析などの染色体検査では観察することができません。より詳細な遺伝子検査が必要になります。同じ遺伝子に生じる変異でも、何の問題も引き起こさないものもあれば、わずかな問題やごく軽度の問題を引き起こすものや、さらには鎌状赤血球貧血嚢胞性線維症筋ジストロフィーなど、重篤な病気を引き起こす変異もあります。小児の病気の原因となる特定の遺伝子が研究者によって次々と発見されています。

    大半の変異がどのようにして起こるのかは依然としてよく分かっていませんが、大半が自然に発生すると考えられています。環境中の物質の中には、遺伝子に傷をつけて変異を引き起こす可能性のあるものがあります。それらの物質のことを変異原といいます。放射線、紫外線、特定の薬物や化学物質などの変異原は、一部のがんや先天異常の原因となります。

    精子や卵子の遺伝子に起きた変異は、親から子に遺伝する可能性があります。その他の細胞の遺伝子に起きた変異は、子どもに遺伝することのない(精子や卵子に影響を及ぼさないため)病気を引き起こす可能性があります。異常な遺伝子のコピーが2つそろうと、嚢胞性線維症テイ-サックス病などの重篤な病気が発生することがあります。ときに、異常な遺伝子のコピーを1つもっているだけで疾患が発生する場合もあります。

    染色体異常と遺伝子異常の検査

    人の染色体や遺伝子は、血液のサンプルや体の一部から採取した細胞(ほほの裏の粘膜から採取した細胞など)を分析することで、評価することができます。妊娠中に、羊水穿刺絨毛採取で得た細胞を用いて、胎児の特定の染色体や遺伝子の異常を検出することもできます。胎児に異常がみられた場合は、具体的な先天異常を検出するために、さらなる検査を行うことがあります。最近では、妊婦の血液サンプルを分析して、胎児に特定の遺伝性疾患のリスクが高くないかを判定するスクリーニング検査が開発されています。この検査は、妊婦の血液中にはごく少量ながら胎児由来のDNAが含まれているという事実に基づいています。この検査は非侵襲的出生前スクリーニング(NIPS)やセルフリー胎児DNA分析と呼ばれています。非侵襲的出生前スクリーニングを行うことで、21トリソミー(ダウン症候群)、13トリソミー18トリソミーや、その他特定の染色体異常症のリスクが高いことを特定することができますが、診断には至りません。医師は通常、何らかの染色体異常のリスクが高いことが判明すれば、さらなる検査を推奨します。

    予防

    染色体異常や遺伝子異常は是正することができませんが、一部の先天異常はときに予防できる場合があり、例えば、神経管閉鎖不全を予防するための葉酸の摂取や、両親が特定の遺伝子異常のキャリアかどうかを調べるスクリーニング検査などがあります。体外受精で得られた胚についても、母親の子宮に移す前に遺伝子異常の検査を行うことが可能です(着床前遺伝子診断を参照)。

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