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予防接種の概要

執筆者:

Margot L. Savoy

, MD, MPH, Lewis Katz School of Medicine at Temple University

レビュー/改訂 2023年 1月
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やさしくわかる病気事典
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予防接種(ワクチン接種)は、特定の細菌やウイルスが原因で起こる病気から体を守る助けとなります。

免疫(特定の細菌やウイルスによって引き起こされる病気から自らを守る体に備わった能力)には、細菌やウイルスにさらされることで自然に生じるものと、ワクチン接種を受けることで人為的に得られるものがあります。ある病気に対してワクチンを接種すると、その病気にかからなくなるか、かかったとしても軽症で済みます。しかし、ワクチンの効果は絶対ではないため、予防接種を受けていても、その病気にかかる可能性があります。

これまでにワクチンは、世界中で重篤な病気の予防と健康状態の改善に大きな効果を発揮してきました。ワクチンの使用が普及している地域や国々では、かつて頻発していた病気や多くの患者が死亡していた病気(ポリオ アルボウイルス アルボウイルス、アレナウイルス、フィロウイルスは、動物から人に(一部は人から人に)広がるウイルスです。関与する動物はウイルスの種類によって異なります。 これらの感染症の多くは症状を引き起こしません。これらの感染症の症状の多くは、あっても通常は軽度で漠然としたものであり、 インフルエンザの症状に似ています。感染症が進行すると、リンパ節の腫れ... さらに読む ジフテリア ジフテリア ジフテリアは、ジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)呼ばれる棒状の グラム陽性細菌(図「 細菌の形状」を参照)による上気道の感染症で、死に至ることもある病気です。一部の種類のジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)は、強力な毒素を出して心臓、腎臓、神... さらに読む ジフテリア など)の多くが現在ではまれになり、制圧されています。例えば、 天然痘 天然痘 天然痘は、天然痘ウイルスが引き起こす、感染性、致死性ともに非常に高い病気です。この病気は現在では根絶されています。 1977年以来、天然痘は発生していません。 感染者が呼吸やせきで排出した空気を吸い込むことで感染します。 発熱、頭痛、背部痛、発疹、またときには重度の腹痛が生じ、非常に体調が悪くなります。... さらに読む 天然痘 という病気は予防接種により撲滅されました。

しかしその一方で、ほとんどの性感染症(HIV感染症 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症とは、ある種の白血球を次第に破壊し、後天性免疫不全症候群(エイズ)を引き起こすことのあるウイルス感染症です。 HIVは、ウイルスやウイルスに感染した細胞を含む体液(血液、精液、腟分泌液)と濃厚に接触することで感染します。 HIVはある種の白血球を破壊し、感染症やがんに対する体の防御機能を低下させます。... さらに読む ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症 梅毒 梅毒 梅毒は、梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)という細菌によって引き起こされる性感染症です。 梅毒の症状は、見かけ上は健康な時期をはさんで、3段階で生じます。 まず患部に痛みのない潰瘍が現れ、第2期では、発疹、発熱、疲労感、頭痛、食欲減退がみられます。... さらに読む 梅毒 淋菌感染症 淋菌感染症 淋菌感染症(淋病)は、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)という細菌によって引き起こされる性感染症で、尿道、子宮頸部、直腸、のどの粘膜や、眼の前部を覆う膜(結膜と角膜)を侵します。 通常は性的接触により感染します。 通常は、陰茎や腟から分泌物が生じたり、頻尿になったり、急に尿意を催したりします。... さらに読む 淋菌感染症 クラミジア感染症 クラミジア感染症とその他の非淋菌感染症 クラミジアによる感染症としては、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)という細菌によって引き起こされる尿道、子宮頸部、直腸の性感染症などがあります。この種の細菌は、白眼の部分を覆う膜(結膜)やのどにも感染することがあります。ウレアプラズマ属(Ureaplasma)やマイコプラズマ... さらに読む クラミジア感染症とその他の非淋菌感染症 )、ダニによって引き起こされる感染症(ライム病 ライム病 ライム病は、ボレリア属(Borrelia)の細菌によって引き起こされ、マダニが媒介する感染症(ダニ媒介性感染症)で、米国でみられるボレリア属細菌は主にライム病ボレリア(Borrelia burgdorferi)、ときにボレリア・マヨニイ(Borrelia... さらに読む ライム病 など)、様々な熱帯病(チクングニア熱 アルボウイルス、アレナウイルス、フィロウイルス感染症の概要 アルボウイルス、アレナウイルス、フィロウイルスは、動物から人に(一部は人から人に)広がるウイルスです。関与する動物はウイルスの種類によって異なります。 これらの感染症の多くは症状を引き起こしません。これらの感染症の症状の多くは、あっても通常は軽度で漠然としたものであり、 インフルエンザの症状に似ています。感染症が進行すると、リンパ節の腫れ... さらに読む など)をはじめとする、数多くの重大な感染症には、まだ効果的なワクチンがありません。

2021年、世界保健機関(WHO)は、サハラ以南アフリカをはじめとする、熱帯熱マラリア原虫 Plasmodium falciparum による マラリア マラリア マラリアは、5種のマラリア原虫(Plasmodium)のいずれかによって引き起こされる赤血球の感染症です。マラリアは発熱、悪寒、発汗、全身のだるさ(けん怠感)のほか、ときに下痢、腹痛、呼吸窮迫、錯乱、けいれん発作を引き起こします。その他の所見としては、脾臓の腫大や貧血(感染した赤血球が破壊されるのが原因です)のほか、ときに心... さらに読む の感染率が中程度から高い水準にある地域の小児に対して、RTS,S/AS01(RTS,S)マラリアワクチンの広範な使用を推奨すると発表しました。これは、アフリカの小児を中心に毎年数十万人の死者を出しているマラリアを予防するための重要な新しい介入でした。(WHOが感染リスクのある小児に対して画期的マラリアワクチンを推奨[WHO recommends groundbreaking malaria vaccine for children at risk]を参照のこと。)

以下では、自身の健康を保ち、家族や地域の人々の健康を守る上で非常に重要な、予防接種に関する推奨事項について説明します。ワクチンで予防できる病気の多くは、容易に人から人へと広がります。その多くは現在も米国内でみられ、世界の他の地域でも一般的にみられます。そうした病気が少ない地域に住んでいても、誰でも簡単に旅行できるようになった現在では、ワクチン接種を受けていない小児の間で感染が急速に広まる可能性があります。

現在使用されているワクチンは非常に効果的で、副反応がみられる人はまれです。

予防接種の種類

予防接種には次の2種類があります。

  • 能動免疫

  • 受動免疫

能動免疫

  • 感染力をもたない細菌やウイルスの断片

  • 細菌が作り出す本来は有害な物質(毒素)を無毒化した物質(トキソイドと呼ばれます)

  • 弱毒化されて病気を引き起こさなくなった、生きた微生物そのもの

ワクチンを接種すると、体の免疫システム(免疫系)が反応し、ワクチンに含まれている特定の細菌やウイルスを識別して攻撃する物質(抗体 抗体 体の防衛線( 免疫系)の一部には 白血球が関わっていて、それらの白血球は血流に乗って体内を移動して組織の中に入り込み、微生物などの異物を見つけ出して攻撃します。( 免疫系の概要も参照のこと。) この防衛線は以下の2つの部分で構成されています。 自然免疫 獲得免疫 獲得免疫(適応または特異免疫)は、生まれたときには備わっておらず、後天的に獲... さらに読む 抗体 白血球 白血球 人間の体には、異物や危険な侵入物から体を守る仕組みとして、免疫系が備わっています。侵入物としては以下のものがあります。 微生物( 細菌、 ウイルス、 真菌など) 寄生虫(蠕虫[ぜんちゅう]など) がん細胞 移植された臓器や組織 さらに読む など)を作り出します。それ以降、接種を受けた人がその細菌やウイルスにさらされるたびに、体が自動的に抗体などを作り、病気の予防や軽減を図ります。ワクチンを投与(接種)する行為は、そのままワクチン接種ということもありますが、感染症を予防するという意味を込めて予防接種ともいいます。

弱毒化された生きた微生物を含有するワクチンとしては、次のものがあります。

知っていますか?

  • ワクチンの中には、予防対象の微生物が生きたまま弱毒化されて入っているものがあります。

受動免疫

受動免疫は、特定の感染性微生物(または微生物によって作られる毒素)に対する抗体を直接注射する方法です。このような抗体は以下のようないくつかの原料から得られます。

  • 特定の微生物や毒素にさらすことで人為的に免疫を作らせた動物(通常はウマ)の血液(血清)。

  • 保存ヒト免疫グロブリンと呼ばれる、多数の人から集められた血液。

  • 特定の病気に対する抗体をもつことが明らかな人々(つまり免疫をもっている人や病気から回復しつつある人)の血液。このような人は血液中に高レベルの抗体をもっており、このように作られるものを高力価免疫グロブリンと呼びます。

  • 研究室で増殖させた、抗体を作る細胞(通常はマウスから採取される)。

受動免疫は、感染に対して免疫系が十分に反応しない人や、ワクチン接種前に感染してしまった場合(例えば、狂犬病にかかっている動物に咬まれた後)などに行われます。

また、感染する可能性が高く、一連の予防接種を受ける時間がない場合に、病気を予防するために行うこともあります。例えば、免疫をもたない妊婦がこのウイルスにさらされた場合には、 水痘ウイルス 水痘(水ぼうそう) 水痘とは、水痘帯状疱疹ウイルスによる、感染力が非常に強い ウイルス感染症で、かゆみのある特徴的な発疹が現れます。発疹は小さな斑点で、盛り上がったり、水疱(水ぶくれ)を形成したり、かさぶたができたりします。 水痘はほとんどが小児に起こりますが、水痘ワクチンのおかげで発生数は大幅に減少しています。... さらに読む 水痘(水ぼうそう) に有効なガンマグロブリンを含有する溶液を投与します。水痘ウイルスは胎児に有害であり、妊婦にも重篤な合併症(肺炎など)を引き起こします。

受動免疫の効力が持続するのは数週間で、注入した抗体はやがて体から排除されます。

ワクチンの接種

ワクチンや抗体は通常、筋肉内または皮膚の下(皮下注射)への注射によって接種します。抗体は静脈内に注射する場合もあります(静脈内注射)。ある種のインフルエンザワクチンは鼻の中にスプレーすることで接種します。

ワクチンの中には定期的に接種するものがあります。例えば破傷風トキソイドは、成人に対して10年に1度の追加接種が勧められます。小児に対して基本的に一律で接種(定期接種)されるワクチンもあります(図「乳児、小児、青年のための定期予防接種 乳児にゅうじ小児しょうに青年せいねんのための定期予防接種ていきよぼうせっしゅ <ruby >乳児<rt >にゅうじ</rt></ruby>、<ruby >小児<rt >しょうに</rt></ruby>、<ruby >青年<rt >せいねん</rt></ruby>のための<ruby >定期予防接種<rt >ていきよぼうせっしゅ</rt></ruby> 」を参照)。

予防接種の制約と予防

多くのワクチンで、接種を行わない理由は次の1つしかありません。

卵アレルギーは米国でよくみられます。卵アレルギーの人の多くは、 インフルエンザワクチン インフルエンザワクチン インフルエンザウイルスワクチンは インフルエンザの予防に役立ちます。米国では、A型とB型の2種類のインフルエンザウイルスが定期的にインフルエンザの季節的流行を引き起こしています。どちらの種類にも、多くのウイルス株が存在します。インフルエンザの大流行を引き起こすウイルス株は毎年変わります。このため、毎年新しいワクチンが必要になります。それぞ... さらに読む など、ごく微量の卵由来成分を含むワクチンを安全に接種できます。卵アレルギーのある人にそのようなワクチンを使用することに対しては懸念がもたれていますが、米国疾病予防管理センター(CDC)によると、軽度の反応が起こることはあるものの、重度のアレルギー反応(アナフィラキシー アナフィラキシー反応 アナフィラキシー反応は急に発症して広い範囲にわたり、生命を脅かすほど重症化することがあるアレルギー反応です。 アナフィラキシー反応の初期症状には不安感が多く、次いでピリピリした感じと、めまいが起こります。 症状がみるみる悪化して、全身にかゆみやじんま疹、腫れが出たり、喘鳴や呼吸困難が起きたり、失神したりします。これ以外のアレルギー症状が出... さらに読む )が起こる可能性は低いとされています。

インフルエンザワクチンが推奨されるかどうかは、卵とワクチンに対するアレルギー反応の重症度によって異なります。

  • インフルエンザワクチンの接種後や卵の摂取後に生命を脅かす重度のアレルギー反応を起こしたことがある人は、インフルエンザワクチンの接種を受けてはいけません

  • 顔の腫れ、呼吸困難、めまい、アドレナリンの注射やその他の緊急治療を必要とする反応などの重篤な反応を起こしたことがある人は、重度のアレルギー反応の診断と管理に長けた医師が監督する医療施設でワクチンを接種するべきです。

  • 卵の摂取後やワクチンの接種後にみられた症状が発疹のみであれば、ワクチン接種を受けてもよいでしょう。

一般に専門家は、このようなCDCの勧告はインフルエンザワクチン以外の卵由来ワクチンについても適切なものであると考えています。

生きた微生物を含有するワクチンは、次の条件に当てはまる人には接種しないか、接種を遅らせる必要があります。

免疫機能が低下している人に感染が広がらないようにするために、同居している人も生きた微生物を含有するワクチンを接種してはいけない場合もあります。

免疫機能を抑制する薬の使用が終了した人や、低下していた免疫機能が正常に回復した人には、生きたウイルスを含有するワクチンを接種しても安全であると考えられます。

小児を対象とする一般的な予防接種

米国では通常、小児に対しては、標準的な予防接種スケジュールに従っていくつかのワクチンを接種します(図「 乳児、小児、青年のための定期予防接種 乳児にゅうじ小児しょうに青年せいねんのための定期予防接種ていきよぼうせっしゅ <ruby >乳児<rt >にゅうじ</rt></ruby>、<ruby >小児<rt >しょうに</rt></ruby>、<ruby >青年<rt >せいねん</rt></ruby>のための<ruby >定期予防接種<rt >ていきよぼうせっしゅ</rt></ruby> 」と「米国疾病予防管理センター:18歳以下を対象とした小児および青年のための推奨予防接種スケジュール、米国、2021年[Centers for Disease Control and Prevention: Recommended Child and Adolescent Immunization Schedule for ages 18 years or younger, United States, 2021]」を参照)。計画通りにワクチンを接種できなくても、ほとんどの場合、接種の遅れを取り戻すためのスケジュールに従って、後から接種することが可能です。

成人を対象とする一般的な予防接種

成人にも、特定のワクチン接種が勧められることがあります(米国疾病予防管理センター:19歳以上を対象とした成人のための推奨予防接種スケジュール、米国、2022年[Centers for Disease Control and Prevention: Recommended Adult Immunization Schedule for ages 19 years or older, United States, 2022]も参照)。その際、医師は年齢、病歴、小児期に受けた予防接種、職業、住んでいる場所、旅行の予定などの要因を考慮します。

ワクチンの安全性

米国では、米国疾病予防管理センター(CDC)がワクチンの安全性を監視しています。医師は定期予防接種の後に発生した問題をCDCのワクチン有害事象報告システム(Vaccine Adverse Event Reporting System[VAERS])とワクチン安全性データリンク(Vaccine Safety Datalink[VSD])に報告する必要があります。予防接種後に健康上の問題が発生した場合、誰でも(医師、看護師、一般の人など)VAERSに報告書を提出することができます。ただし、VAERSの報告書から、その問題がワクチンによって引き起こされたものかどうかを判断することはできません。

それでも、ほとんどの製薬会社はチメロサールを含まない乳児用および成人用ワクチンを開発しました。現時点で少量のチメロサールを含有するワクチンに関する情報は、米国食品医薬品局のウェブサイト(チメロサールとワクチン[Thimerosal and Vaccines])で入手できます。

外国への渡航前に必要な予防接種

米国の居住者は、国内では通常みられない感染症の発生地域に旅行する場合、その前に特定の予防接種を受けるよう求められることがあります(表「 外国旅行のためのワクチン接種 外国旅行のためのワクチン接種*,†,‡ 外国旅行のためのワクチン接種*,†,‡ 」を参照)。必要な予防接種は病気の流行状況によって頻繁に変わります。

必要な予防接種に関する最新情報がCDCの「旅行者の健康(Travelers’ Health)」セクションで提供されています。また、CDCは24時間対応の電話による情報提供サービスを開設しています(1-800-232-4636[CDC-INFO]、米国のみ)。

さらなる情報

以下の英語の資料が役に立つかもしれません。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。

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