腹水がたまる病気は多くありますが、最も一般的な原因は、肝臓につながる静脈(門脈)の血圧が上昇すること(門脈圧亢進症 門脈圧亢進症 門脈圧亢進症は、門脈(腸から肝臓に向かう太い静脈)とその分枝の血圧が異常に高くなる病気です。 欧米諸国で最も一般的な原因は、 肝硬変(瘢痕化により肝臓の構造が歪み、機能が損なわれること)です。 門脈圧亢進症は、腹部の膨隆( 腹水)、腹部の不快感、錯乱、消化管での出血につながります。 医師は、症状および身体診察の結果、ときには超音波検査、CT検査、MRI検査、または 肝生検の結果に基づいて診断を下します。... さらに読む )で、通常は 肝硬変 肝硬変 肝硬変は、機能を果たさない瘢痕組織が大量の正常な肝組織と永久に置き換わり、肝臓の内部構造に広範な歪みが生じることです。肝臓が繰り返しまたは継続的に損傷を受けると、瘢痕組織が生じます。肝硬変はかつては不可逆的と考えられていましたが、最近の科学的証拠から一部の症例では可逆的であることが示唆されています。 肝硬変の最も一般的な原因は、慢性的な アルコール乱用、 慢性ウイルス性肝炎、... さらに読む によって起こります。
大量の体液が貯留すると、腹部は非常に大きく膨らみ、ときに食欲不振や息切れ、不快感を生じることがあります。
原因を確定するには、腹水の分析が役立ちます。
通常は、低ナトリウム食と利尿薬によって、過剰な体液の排出を促します。
(肝疾患の概要 肝疾患の概要 肝疾患は、様々な形で現れます。特徴的な症状や徴候には、以下のものがあります。 黄疸(皮膚や白眼の部分が黄色くなる症状) 胆汁うっ滞(胆汁の流れの減少または停止) 肝腫大(肝臓が大きくなる) 門脈圧亢進症(腸から肝臓に向かう静脈の血圧が異常に高くなること) さらに読む も参照のこと。)
腹水の原因
腹水の最も一般的な原因は以下のものです。
肝疾患
腹水のあまり一般的でない原因には、がん、 心不全 心不全 心不全とは、心臓が体の需要を満たせなくなった状態のことで、血流量の減少や静脈または肺での血液の滞留(うっ血)、心臓の機能をさらに弱めたり心臓を硬化させたりする他の変化などを引き起こします。 心不全は心臓の収縮や弛緩が不十分になることで発生しますが、これらの変化は一般的に、心筋が弱ったり硬くなったりすることが原因で起こります。... さらに読む 、 腎不全 慢性腎臓病 慢性腎臓病では、血液をろ過して老廃物を除去する腎臓の能力が、数カ月から数年かけて徐々に低下します。 主な原因は糖尿病と高血圧です。 血液の酸性度が高くなり、貧血が起き、神経が傷つき、骨の組織が劣化し、動脈硬化のリスクが高くなります。 症状としては、夜間の排尿、疲労、吐き気、かゆみ、筋肉のひきつりやけいれん、食欲不振、錯乱、呼吸困難、体のむくみ(主に脚)などがあります。 診断は血液検査と尿検査によって下されます。 さらに読む 、膵臓の炎症(膵炎 膵炎の概要 膵炎とは膵臓の炎症です。 膵臓は木の葉の形をした臓器で、長さは約13センチメートルあります。周囲を胃の下側と小腸の最初の部分(十二指腸)に囲まれています。 膵臓には主に以下の3つの機能があります。 消化酵素を含む膵液を十二指腸に分泌する 血糖値の調節を助けるインスリンとグルカゴンというホルモンを分泌する さらに読む )、 結核 結核 結核は、空気感染する細菌である結核菌(Mycobacterium tuberculosis)によって引き起こされる、感染力の強い慢性感染症です。結核は肺を侵しますが、ほぼすべての臓器に影響が及ぼす可能性があります。 結核に感染するのは、主に活動性結核の患者によって汚染された空気を吸い込んだ場合です。... さらに読む 性腹膜炎など、肝臓と関係のない病気があります。
腹水は、短期的な肝疾患(急性疾患)よりも、長期的な肝疾患(慢性疾患)で生じやすい傾向があります。以下の病態に起因する場合が、最も一般的です。
通常、門脈圧亢進症は 肝硬変 肝硬変 肝硬変は、機能を果たさない瘢痕組織が大量の正常な肝組織と永久に置き換わり、肝臓の内部構造に広範な歪みが生じることです。肝臓が繰り返しまたは継続的に損傷を受けると、瘢痕組織が生じます。肝硬変はかつては不可逆的と考えられていましたが、最近の科学的証拠から一部の症例では可逆的であることが示唆されています。 肝硬変の最も一般的な原因は、慢性的な アルコール乱用、 慢性ウイルス性肝炎、... さらに読む (肝臓の重度の瘢痕化)に起因し、肝硬変自体は大量飲酒、 脂肪肝 脂肪肝 脂肪肝は、肝細胞の内部に中性脂肪(トリグリセリド)が過剰に蓄積した状態です。 脂肪肝の患者には、疲労や腹部の軽い不快感が生じることがありますが、それ以外の症状はみられません。 脂肪肝は、線維化や肝硬変などの進行した肝疾患を引き起こすことがあります。 診断を確定するため、また損傷の原因と範囲を特定するために肝生検が必要になることがあります。 医師は、メタボリックシンドロームや過度の飲酒など、脂肪肝の原因をコントロールするか取り除くことに重... さらに読む 、または 慢性ウイルス性肝炎 慢性肝炎の概要 慢性肝炎は、肝臓の炎症が最低6カ月以上持続する病気です。 一般的な原因としては、B型およびC型肝炎ウイルス、特定の薬などがあります。 ほとんどの場合は無症状ですが、全身のけん怠感、食欲不振、疲労などの漠然とした症状がみられることもあります。 慢性肝炎は、肝硬変のほか、最終的には肝臓がんや肝不全に進行することがあります。 診断を確定するために生検が行われることもありますが、慢性肝炎は通常、血液検査の結果に基づいて診断が下されます。 さらに読む に起因することが最も一般的です。
腹水は、肝硬変を伴わない重度のアルコール性肝炎、他の病型の慢性肝炎、肝静脈閉塞(バッド-キアリ症候群 バッド-キアリ症候群 バッド-キアリ症候群は、肝臓からの血流を完全にまたは部分的に遮断する血栓によって引き起こされます。閉塞は、肝臓(肝静脈)から下大静脈に向かう大小の静脈のどこにでも起こる可能性があります。 無症状の場合もありますが、疲労、腹痛、吐き気、黄疸などがみられる場合もあります。 腹部に体液が貯留し、脾臓が腫大することがあるほか、ときには食道で重度の出血が起こります。 ドプラ超音波検査では、静脈が狭くなっている部分やふさがっている部分を検出できます... さらに読む )など、他の肝疾患で生じることもあります。
肝疾患があると、腹水が肝臓や腸の表面から漏れ出て、腹腔内に貯留します。腹水の発生には、複数の要因が関与しています。具体的には以下のものがあります。
腎臓による体液の保持
体液を制御しているいろいろなホルモンや化学物質の変動
さらに通常は、アルブミンが血管から腹部に漏れ出します。正常では、血液中の主要なタンパク質であるアルブミンは、血管から体液が漏れ出るのを防いでいます。アルブミンが血管から漏れ出すと、体液も漏れ出します。
腹水の症状
腹水があっても少量であれば、通常は何の症状もみられません。中程度の量の腹水がたまると、胴回りの寸法と体重が増えることがあります。大量の腹水は、腹部の膨隆と不快感を引き起こすことがあります。腹部が張り詰めて、へそが扁平になったり飛び出たりすることさえあります。
腹部が膨張すると、胃が圧迫されて食欲不振になったり、肺が圧迫されてときに息切れを起こしたりします。
腹水のある人では、過剰な体液が足首に貯留する(浮腫 むくみ むくみ(浮腫)は、組織内の体液の量が過剰になることによって起こります。その体液は主に水が占めています。 むくみは、広い範囲に及ぶこともあれば、腕や脚の全体または一部分でとどまることもあります。むくみは下腿(膝から足首までの部分)に起こることが多いですが、長期にわたってベッドで寝ていなければならない人(長期の床上安静)では、ときに殿部や性器、太ももの背面にむくみが起きることがあります。常に片側を下にして横向きに寝る女性では、下側にくる乳房... さらに読む を起こす)ために足首がむくむこともあります。
腹水の合併症
特発性細菌性腹膜炎(明確な理由なく生じる腹水の感染)が起こることがあります。この病態は、腹水と 肝硬変 肝硬変 肝硬変は、機能を果たさない瘢痕組織が大量の正常な肝組織と永久に置き換わり、肝臓の内部構造に広範な歪みが生じることです。肝臓が繰り返しまたは継続的に損傷を受けると、瘢痕組織が生じます。肝硬変はかつては不可逆的と考えられていましたが、最近の科学的証拠から一部の症例では可逆的であることが示唆されています。 肝硬変の最も一般的な原因は、慢性的な アルコール乱用、 慢性ウイルス性肝炎、... さらに読む がある人によく起こり、特に大量の飲酒をする人で多くみられます。
特発性細菌性腹膜炎を発症すると、通常は腹部に不快感が現れ、腹部に圧痛を感じることもあります。発熱や体調不良がみられるほか、錯乱や見当識障害に陥ったり、眠気を覚えたりすることもあります。治療しないと死に至ることがあります。生存の見込みは、適切な抗菌薬による早期の治療を行えるかどうかにかかっています。
腹水の診断
医師による評価
ときに超音波検査などの画像検査
ときに腹水の分析
腹部を軽く打診すると、腹水は鈍い音を発します。腸がガスで膨張しているために腹部が膨らんでいる場合は、軽くたたくことにより中空の音がします。しかし、腹水の量が約1リットルに満たなければ、腹水を検知できないこともあります。
腹水の有無や原因が分からない場合は、超音波検査またはCT検査が行われることがあります(CT; 肝臓と胆嚢の画像検査 肝臓と胆嚢の画像検査 肝臓、胆嚢、胆管の画像検査には、超音波検査、核医学検査、CT検査、MRI検査、内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)検査、経皮経肝胆道造影検査、術中胆道造影検査、単純X線検査などがあります。 ( 肝臓と胆嚢の概要も参照のこと。) 超音波検査では、音波を利用して肝臓や胆嚢、胆管を画像化します。経腹超音波検査は、 肝硬変(肝臓の重度の瘢痕化)や 脂肪肝(肝臓に過剰な脂肪が蓄積している状態)など肝臓全体を一様に侵す異常よりも、腫瘍など肝臓の特... さらに読む を参照)。さらに、腹壁越しに針を穿刺して腹水のサンプルを少量採取することもあり、この処置を診断的 穿刺 穿刺 穿刺(せんし)とは、体液を取り除くために腹腔に針を挿入することです。正常な場合、腹腔内には体液は少量しかありません。しかし、肝疾患、心不全、胃や腸の破裂、がん、脾臓の破裂などの特定の状況で、腹部に体液( 腹水)がたまることがあります。医師は、診断の助けにするため(例えば体液のサンプルを採取して分析する)、または治療の一部として(例えば過剰な体液を除去)、穿刺を行うことがあります。... さらに読む といいます。原因を確定するには、腹水の分析が役立ちます。
腹水の治療
低ナトリウム食
利尿薬
腹水の除去(腹腔穿刺)
ときに門脈大循環短絡術(血流の迂回路を作る手術)、または肝移植
特発性細菌性腹膜炎に対して、抗菌薬
腹水に対する基本的な治療法は低ナトリウム食で、1日当たりのナトリウム摂取量を2000mg以下にすることを目標にします。
食事療法が無効なら、通常は利尿薬という種類の薬(スピロノラクトン、フロセミドなど)も使用されます。利尿薬を使用すると、腎臓から尿中に排泄されるナトリウムと水の量が増え、そのため尿の量が増加します。
腹水のために不快になったり呼吸や食事が困難になったりしたら、腹腔内に針を刺して腹水の除去を行うことがありますが、この処置を腹腔穿刺といいます。こうして腹水を除去しても、低ナトリウム食と利尿薬の服用を続けないと、腹水は再度貯留する傾向があります。また通常は、大量のアルブミンが血液から失われて腹水に入るため、アルブミンを静脈内投与することがあります。
大量の体液が頻繁に貯留している場合や、他の治療が無効な場合は、門脈大循環短絡術、または 肝移植 肝移植 肝移植とは、健康な肝臓またはときに生きている人から肝臓の一部を手術で摘出し、肝臓が機能しなくなった人に移植することです。 ( 移植の概要も参照のこと。) 肝移植は2番目に多い臓器移植です。肝臓が機能しなくなった人々に残された唯一の選択肢です。 完全な形の肝臓は死亡した人からしか提供を受けられませんが、肝臓の一部であれば生きているドナーでも提供できます。移植用の肝臓は摘出後、最長で18時間保存できます。... さらに読む が必要になることがあります。 門脈大循環短絡術 門脈大循環短絡術 門脈圧亢進症は、門脈(腸から肝臓に向かう太い静脈)とその分枝の血圧が異常に高くなる病気です。 欧米諸国で最も一般的な原因は、 肝硬変(瘢痕化により肝臓の構造が歪み、機能が損なわれること)です。 門脈圧亢進症は、腹部の膨隆( 腹水)、腹部の不快感、錯乱、消化管での出血につながります。 医師は、症状および身体診察の結果、ときには超音波検査、CT検査、MRI検査、または 肝生検の結果に基づいて診断を下します。... さらに読む では、全身(体循環)の静脈と門脈またはその分枝をつなぎ合わせることで、血流が肝臓を迂回するようにします。しかし、シャントを作る手術は侵襲的な(体に負担をかける)治療法であるため、脳機能の異常(肝性脳症 肝性脳症 肝性脳症は、重度の肝疾患がある人において、正常なら肝臓で除去されるはずの有害物質が血液中に蓄積して脳に達することで、脳機能が低下する病気です。 肝性脳症は、長期にわたる(慢性の)肝疾患がある患者に発生します。 肝性脳症は、消化管での出血、感染症、処方薬を正しく服用しないこと、その他のストレスによって誘発されます。 錯乱、見当識障害、眠気が起こるとともに、性格、行動、気分の変化がみられます。... さらに読む )や肝機能低下などの問題を引き起こすことがあります。
特発性細菌性腹膜炎と診断されると、セフォタキシムなどの抗菌薬が投与されます。特発性細菌性腹膜炎は、1年以内に再発することが多いため、最初の感染が解消した後に異なる抗菌薬(ノルフロキサシンなど)を投与して感染の再発を予防します。