気胸

執筆者:Richard W. Light, MD, Vanderbilt University Medical Center
レビュー/改訂 2021年 1月
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やさしくわかる病気事典

気胸とは、2層の胸膜(肺の外側と胸壁の内側を覆っている薄くて透明な膜)の間に空気が入り込むことによって、肺が部分的または完全につぶれてしまう病気です。

  • 症状には、呼吸困難や胸痛などがあります。

  • 診断は胸部X線検査によって下されます。

  • 治療は通常、ドレーンやときに合成樹脂製のカテーテルを胸部に挿入して空気を抜くことです。

胸膜疾患の概要も参照のこと。)

正常な状態では、胸腔内の圧力は、肺の内部や胸の外側より低くなっています。胸腔と肺の内部、または胸腔と胸の外部がつながってしまうような穿孔が生じると、胸腔内に空気が入り込み、圧力が等しくなるか空気の通路がふさがれるまで空気が入り続けます。胸腔に空気が入り込むと、肺が部分的につぶれます(肺の虚脱)。場合によっては、肺のほとんどまたは全部がつぶれて、激しい息切れを起こすことがあります。

原発性自然気胸は、肺疾患のない人に明らかな原因なく起こる気胸です。原発性自然気胸は通常、肺のややもろくなった部分(ブラ)が破裂した際に発生します。この病気は、40歳未満で背が高い男性の喫煙者に最もよくみられます。ほとんどの人が完全に回復しますが、最大で50%の人に再発がみられます。

基礎に肺疾患がある人に発生する場合もあり、これを続発性自然気胸と呼びます。このタイプの気胸は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)のある高齢者においてブラが破裂したときに発生することが最も多いものの、嚢胞性線維症喘息肺ランゲルハンス細胞組織球症サルコイドーシス肺膿瘍結核ニューモシスチス(Pneumocystis)肺炎など、その他の肺疾患の患者でもみられます。続発性自然気胸では、基礎に肺疾患があるため、原発性自然気胸に比べて症状や治療成績は一般に悪くなります。再発率は、原発性自然気胸と同程度です。

月経随伴性気胸は、続発性自然気胸のまれな一形態です。閉経前女性では月経開始後48時間以内に起こりますが、ときにエストロゲン製剤.を服用している閉経後女性にもみられます。原因は胸部の子宮内膜症で、これは子宮の内側の組織(子宮内膜)が横隔膜の開口部または静脈を通って肺に移動することで生じると考えられています(子宮内膜症は子宮内膜が子宮外のどこかに現れたときに使用される医学用語です)。

胸腔に空気が入る処置を受けた後に、気胸が発生することもあります(外傷性気胸と呼ばれます)。外傷性気胸は、胸腔穿刺、気管支鏡検査または胸腔鏡検査などの処置によって起こることがあります。人工呼吸器により肺に圧力損傷が生じて、気胸になることもあり、特にCOPDや重症の急性呼吸窮迫症候群の患者に最もよくみられます。肺内の圧力変化(ダイバー[圧外傷]や航空パイロットにみられる)は、気胸のリスクを高めることがあります。

気胸の症状

胸腔内に入った空気の量、つぶれた肺の範囲、気胸が生じる前の肺機能などによって、症状は大きく異なります。症状はまったくないこともあれば、わずかな息切れや胸痛がみられる程度であったり、激しい息切れ、ショック、生命を脅かす心停止が生じたりと様々です。

ほとんどの場合、鋭い胸痛や息切れが突然始まり、ときに発作的な空せきがみられることもあります。肩、首、または腹部に痛みを感じることもあります。ゆっくり進行する気胸は、急速に進行する気胸よりも症状が軽い傾向にあります。

気胸が非常に大きな場合や、圧力が上昇し主要な血管を押しつぶす気胸(緊張性気胸)を除き、つぶれた肺に体が順応するにつれて、一般に症状は軽快し、空気が胸腔から再び肺に吸収されるにつれて、肺はまたゆっくりと膨らみ始めます。

気胸の診断

  • 身体診察

  • 胸部X線検査

気胸が大きい場合は、一般に診察により診断を確定することができます。医師が聴診器を胸に当てると、胸の一部で正常な呼吸音が聞こえないことがあり、胸部をたたく(打診する)と、中が空の太鼓のような音がします。ときに、胸部の皮膚の下に空気がたまることがあり、胸部を触ると気泡がはじけるような感覚がしてプチプチという音が聞こえることがあります。

胸部X線検査では、空気のたまった部分や、内側の薄い胸膜に縁どられたつぶれた肺の輪郭がみられます。また、気管(首の前側を通っている太い気道)が片側に押されていないかどうかも胸部X線検査で確認できます。

気胸の治療

  • 空気を抜く

小さな原発性自然気胸では、一般に治療の必要はありません。通常は、重篤な呼吸障害には至らず、空気は数日間で吸収されます。空気の吸収を速めるため、鼻またはフェイスマスクから酸素が投与されることもあります。比較的大きな気胸では、空気が完全に吸収されるのに2~4週間かかることがあります。ただし、カテーテルまたは胸腔ドレーンを気胸のある部位に挿入することで、もっと速く空気を抜くこともできます。

呼吸に支障をきたすほどの大きな原発性自然気胸は、胸部に挿入した合成樹脂製のカテーテルに太い注射器を取り付けて、空気を抜く(吸引する)ことも可能です。カテーテルはすぐに抜去することもありますが、再度空気がたまったらその空気を抜くことができるよう、密封してしばらくの間そのまま留置しておくこともあります。原発性自然気胸の人は禁煙する必要があり、禁煙カウンセリングが有益な場合もあります。

カテーテルによる吸引で効果がない場合や、続発性自然気胸や外傷性気胸などの別の種類の気胸である場合は、胸腔ドレーンを用いて空気を抜きます。胸壁を切開して胸腔ドレーンを挿入し、片方をウォーターシール式のドレナージ装置、または空気を逆流させずに放出できる一方向弁に接続します。気道と胸腔の間にできた異常な通路(瘻孔)から空気が入り続けている場合は、吸引ポンプを胸腔ドレーンに接続して使用することもあります。

場合によっては、手術が必要です。多くの場合、手術は胸腔鏡を胸壁から胸腔内に挿入して行われます。

再発性気胸

気胸が再発すると、高度の身体障害をきたすことがあります。手術によって、気胸の再発を予防することもあります。手術では一般的に、肺の空気が漏れている部分を修復し、胸膜の内側の層と外側の層をしっかりと接着します。この手術は通常、胸腔内を観察できる胸腔鏡という管状の機器を用いて行います。手術が必要と考えられるのは、次のような場合です。

  • リスクの高い人(例えば、ダイバーや航空機パイロットなど)が気胸を初めて発症した後

  • 続発性自然気胸を初めて発症した後(十分に手術を受けられる健康状態の場合)

  • 気胸が回復する見込みがない人、または同じ側の肺に気胸が2回発生した人

健康状態が悪いために手術に耐えられない再発性気胸の患者では、胸腔から空気を抜くのに使用している胸腔ドレーンを通して、タルク配合剤またはドキシサイクリンという薬剤を注入することで、胸膜の間の空間をふさぐことがあります。ただし、このようにして胸膜の間の空間をふさぐ方法は、手術に比べて効果が劣ります。この治療を受けた人の25%では、いずれ気胸が再発します。それに対して、手術を行った場合、気胸が再発する割合はわずか5%です。

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