昏迷と昏睡

執筆者:Kenneth Maiese, MD, Rutgers University
レビュー/改訂 2022年 5月
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やさしくわかる病気事典

昏迷とは、反応がなく、激しい物理的な刺激によってのみ覚醒させることができる状態です。昏睡とは、反応がなく、覚醒させることができず、刺激を受けても眼は閉じたままになっている状態です。

  • 昏迷や昏睡の原因は通常、脳の左右両側の広い領域または意識の維持に特化した領域に影響を及ぼす病気、薬、またはけがです。

  • 身体診察、血液検査、脳の画像検査、家族や友人への問診は、原因を特定する上での助けになります。

  • 医師は、可能であれば原因を是正し、呼吸やその他の身体機能を(人工呼吸器などで)補助し、頭蓋内の圧力が上昇している場合はそれを下げる対策を講じます。

  • 昏睡から回復するかどうかは原因によって大きく異なります。

意識の制御

正常な脳は、必要に応じて活動レベルと意識レベルをすばやく調節できます。この調整は、眼、耳、皮膚などの感覚器官から受け取る情報に基づいて行われます。例えば、脳は、代謝活動(エネルギーレベル)を調整して睡眠を誘発することができます。

目が覚めているかどうか(覚醒)は、脳幹(大脳と脊髄を接続している脳の一部)の上部にある神経細胞と神経線維のシステム(網様体賦活系)によって制御されています。大脳(脳の最大の部位)は、脳幹の上部と相互に作用して、意識と覚醒を維持しています。大脳は左右2つの半球(大脳半球)で構成されています。

活動レベルと意識レベルを調節する脳の機能は、以下のような場合に損なわれます。

  • 両方の大脳半球が機能不全に陥ったとき、特に突然重度の損傷が起きたとき

  • 網様体賦活系が機能不全に陥ったとき

活動レベルと意識レベルを調節する脳の機能は、以下の状況でも損なわれます。

  • 重度の睡眠不足のとき

  • けいれん発作の最中とその直後

  • 脳全体に供給される血流または栄養(酸素や糖など)が減少したとき

  • 脳の特定の部分に向かう血流が減少したとき(ある種の脳卒中など)

  • 有害物質が脳内の神経細胞を傷つけたり、その機能を低下させたりしたとき

  • 脳腫瘍または外傷による出血や腫れが脳の一部に圧力をかけたとき

有害物質は(例えば、摂取や吸入によって)体内に取り込まれたものである場合と、体内の正常なプロセスの老廃物として作られ、正常に分解・除去されずに体内に蓄積したものである場合があります。

のう構造こうぞう

のう大脳だいのう脳幹のうかん小脳しょうのうでできています。大脳だいのう左右さゆう半分はんぶん半球はんきゅう)にかれていて、それぞれが脳葉のうようというちいさな部分ぶぶんかれています。

意識障害のレベル

意識障害は短時間だけの場合もあれば、長く続く場合もあります。障害の程度は、以下のように軽いものから重いものまで様々です。医師は意識レベルの程度を記述するのに以下のような様々な用語を使用します。

  • 嗜眠は、覚醒レベルが若干低下した状態または精神がやや不鮮明になった状態(意識の混濁)です。普段と比べて、自分の周囲の状況をあまり認識できず、思考が遅くなる傾向があります。疲労を感じたり、活力を失ったりすることもあります。

  • 昏蒙は、不正確な用語であり、覚醒レベルが中等度に低下した状態や意識が中等度に混濁した状態を指します。

  • せん妄は、突然起こる意識障害と精神機能の障害で、一般にその程度には変動がみられ、通常は回復します。ものごとに注意を向けられなくなったり、明晰な思考ができなくなったりします。見当識障害が起こり、自分がどこにいるのかや今何時なのかが分からなくなることがあります。過度に警戒し、注意深くなり、明晰な思考ができるようになったかと思うと、次の瞬間には反応が鈍く、注意散漫になり、錯乱することもあります。

  • 精神状態の変化とは、医師が意識の変化(嗜眠、昏蒙、せん妄、ときに昏迷や昏睡)を指して言うときに使うことのある非常にあいまいな言葉です。

  • 昏迷は、過度に深まった無反応状態です。繰り返し体をゆする、大声で呼びかける、体をつねるなどの強い刺激を与えると、短時間だけ目を覚ますことができます。

  • 昏睡は、(一部の自動的な反射を除き)完全に無反応となった状態です。患者を覚醒させることはまったくできません。眼は閉じたままです。深い昏睡状態にある患者では、痛みを引き起こすものから腕や脚を避けるといった意図的な反応がみられません。

昏迷と昏睡の原因

意識障害の原因になるものは数多くあり、同じ原因でも、生じる意識障害のレベル(嗜眠、昏蒙、昏迷、昏睡)は様々です。

最も一般的な原因は以下のものです。

病気

一部の病気では、脳に必要な物質が供給されるプロセスが妨げられたり、体内で必要な物質が利用されるプロセスが妨げられたりします。例えば、以下のものがあります。

  • 血糖値が非常に低いまたは非常に高い状態(低血糖または高血糖)

  • 呼吸(肺機能)不全心不全など、血液中の酸素レベルが非常に低くなる状態

  • 心臓のポンプ機能または呼吸が突然停止した状態(心停止または呼吸停止)

血液は、全身の組織に酸素と必要な栄養素(脂肪、糖分、ミネラル、ビタミンなど)を運んでいます。そのため、脳への血流が減少すると、脳では酸素や必要な栄養素が不足します。呼吸不全などで肺が正常に機能していない場合も、脳内の酸素が不足します。病気(低血糖など)によって血液中の栄養素の濃度が低下すると、脳内の栄養素が不足することがあります。

糖尿病があると、血糖値が過度に高くなったり、過剰な治療によって過度に低下したりする可能性があるため、昏迷や昏睡のリスクが高まります。血糖値が非常に高くなると、脱水になり、その結果脳の機能が低下します。血糖値が低下すると、脳は主なエネルギー源(糖)が不足するため、機能不全に陥ったり、傷ついたりすることがあります。糖尿病は脳の血管や神経細胞を徐々に損傷していきます。その結果、脳に十分な酸素が供給されず、脳組織が死滅することがあります。

また、体中の細胞の機能不全を引き起こす病気もあります。多くの場合、最も影響を受けるのが脳の細胞です。例として、以下のような病気が挙げられます。

上記のほかに、意識を制御している脳領域を侵す病気も原因としてよくみられます。そのような病気としては以下のものがあります。

  • 頭部外傷では、これらの脳領域が(物理的な損傷を受けることなく)揺さぶられたり、直接的な損傷を受けたり、脳の内部や周囲の出血によって間接的な損傷を受けたりすることがあります。

  • 脳卒中腫瘍も、意識を制御する脳領域に直接的な損傷を与える可能性があります。

頭蓋内の圧力(頭蓋内圧)を上昇させるあらゆる病気は、意識障害を招く可能性があります。血腫(血液の貯留)や腫瘍、膿瘍など、脳内にできた腫瘤は、意識を制御している脳領域を圧迫することにより、間接的に意識に悪影響を及ぼす可能性があります。

構造的な異常により脳内の髄液の流れが妨げられ、頭蓋内圧が上昇することがあります。髄液は、脳と脊髄を覆う組織と組織の間を流れ、脳内の空間を満たしている液体です。構造的な異常は出生時から存在している場合もあります。

腫瘤が大きいと、頭蓋内の比較的硬い構造に脳が押しつけられて、脳組織が傷つくことがあります。意識を制御する脳領域がこうした影響を受けると、患者は昏迷または昏睡に陥ります。圧があまりに高くなると、脳の各部分を仕切っている比較的硬いシート状の組織にある小さな穴から脳が押し出されることがあります。この状態は脳ヘルニアと呼ばれ、生命を脅かします。脳ヘルニアが起こると、脳組織にさらに損傷が起こり、状態がますます悪化する可能性があります。

脳卒中を起こしたことがある人や、脳機能に影響を及ぼす別の病気がある人では、意識が障害される他の脳疾患にかかりやすくなります。

物質

一般的に、過度の飲酒をしたり、鎮静薬オピオイド(麻薬)など、特定の薬剤を過剰に使用したりすると、意識が障害されます。アルコールと一部の薬は、脳細胞の機能を鈍らせるだけでなく、脳細胞を間接的に損傷することもあります。アルコールや薬により呼吸速度が大きく低下して、血液中の酸素レベルが非常に低くなり、脳に損傷が生じることがあります。

(複数の病気の治療のために)複数の薬を使用することも意識障害の一般的な原因であり、その理由の1つに、複数の薬を使用すると薬同士が相互作用するリスクが高まることが挙げられます。

マリファナ(医療用のものを含む)の過剰摂取は、ときに脳の機能不全を引き起こし、その結果意識障害やときにけいれん発作が生じます。

特定の抗精神病薬を使用した結果、ときとして、悪性症候群と呼ばれる無反応状態に陥ることがあります。この症候群は、筋肉の硬直、発熱、高血圧、精神機能の変化(錯乱、嗜眠など)を特徴とします。

精神障害と精神的ストレス

ときに、精神障害または精神的ストレスのある人が、無反応に見えることがあります。例えば、がんを告知された人や、配偶者が離婚を考えていることを知ってしまった人は、意気消沈し、話しかけられたり触られたりしても反応しなくなることがあります。しかし、そのような人は、自分の周囲で何が起こっているのかを認識していて、脳は正常に機能している可能性があります。

医師は通常、診察の結果に基づき、意識障害と思われる状態に精神障害や心理的苦痛がどのくらい関与しているのか、また患者が無反応を装っているだけなのかどうかを判定できます。

高齢

加齢自体が意識障害のリスクを高めるわけではありません。しかし、加齢に伴う変化により、高齢者の意識障害は特に懸念されるものとなります(高齢者での重要事項:昏迷と昏睡を参照)。例えば、高齢者によくみられる一部の病気(高血圧や糖尿病など)は、別の問題が生じた場合に意識障害のリスクを高める可能性があります。

高齢者の意識障害を引き起こす一般的な問題には、以下のものがあります。

  • 薬への反応

  • 脱水

  • 感染症

  • 新しい病気(脳卒中や心不全など)の発生、またはすでにある病気の悪化

昏迷と昏睡の症状

意識障害の程度は様々です。昏迷状態の患者は、通常は意識がありませんが、激しい刺激を与えると覚醒させることができます。昏睡状態の患者は、意識がなく、眼は閉じたままで、覚醒させることができません。

昏迷や昏睡を引き起こす脳の損傷また機能障害は、体の他の部位にも影響を及ぼします。

通常は、呼吸のパターンが異常になります。呼吸が速すぎる、遅すぎる、深すぎる、または不規則になることがあります。あるいは、これらの異常な呼吸パターンが交互に現れることもあります。

血圧は、意識障害の原因によって、上がることもあれば下がることもあります。例えば、頭部外傷により脳に大量の出血が起こると、頭蓋内の圧力が急速に上昇し、脳への血流が減少します。すると血圧を制御する神経が反応し、血圧を上げて脳への正常な血流量を維持しようとします。意識障害の原因が重度の感染症、重度の脱水、大量失血、特定の薬物の過剰摂取、心停止である場合、血圧は劇的に低下します。

筋肉が収縮したり、異常な姿勢で収縮したまま元に戻らなくなったりすることがあります。例えば、頭が後ろに傾いて両腕と両脚は伸びたままになることがあり、この状態は除脳硬直と呼ばれます。あるいは、両脚が伸びて両腕は曲がったままになることもあり、この状態は除皮質硬直と呼ばれます。全身がだらりと緩むこともあります。ときに筋肉が散発的にまたは不随意に収縮することがあります。

に影響が及ぶこともあります。片方または両方の瞳孔が広がって(散大して)、光の変化に反応しなくなることがあります。あるいは、瞳孔が小さくなることもあります。眼球が動かなくなったり、動きが異常になったりすることもあります。

意識に悪影響を及ぼす病気によって、その他の症状が現れることがあります。例えば、原因が髄膜炎(脳と脊髄を覆う組織層の感染症)であれば、初期症状として発熱、嘔吐、頭痛などの症状や、あごを胸に近づけようとすると首に痛みが出て硬くなる徴候(項部硬直)がみられたりします。

昏睡などで体を動かせない状態が長く続くと、床ずれ、腕や脚の神経の損傷、血栓、尿路感染症などの問題が生じることもあります(床上安静による問題を参照)。

昏迷と昏睡の診断

  • 医師による評価

  • 神経学的診察

  • 臨床検査と画像検査

意識障害の有無は観察と診察の結果に基づいて判断できます。治療方法は原因によって異なり、意識障害が進行して昏睡や脳死に至る可能性があるため、医師は障害が起こっている脳の部位と障害の原因を特定するよう努めます。

何度も激しく起こそうとすると短時間だけ覚醒する場合は、昏迷と診断されます。まったく覚醒させることができず、患者が眼を閉じたままである場合は、昏睡と診断されます。

昏迷や昏睡は生命を脅かす病気が原因で起こることもあるため、昏迷または昏睡状態の人がいる場合は、直ちに病院に搬送しなければなりません。医療従事者は原因の特定に努め、それと並行して救急処置を行います。例えば、血糖値を推定するために迅速な検査を行います。血糖値が低い(直ちに永続的な脳の損傷が起こる可能性がある)ことが分かれば、直ちに治療を開始できます。

昏迷または昏睡状態の患者は、意思を伝えることができません。そのため医師は通常、患者が医療情報を記したブレスレットやネックレスを身につけていないか確認します。これらによって意識障害の原因を推測できることがあります。原因を特定するために、患者の財布、カバン、ポケットの中を調べて医療情報(病院の診察券など)や薬がないか確認することもあります。そのため、昏迷や昏睡のリスクを高める病気(糖尿病やけいれん性疾患など)がある人は、自身の医療情報が分かるものを何らかの形で携帯したり着用したりしておくべきです。

患者の意識が変化したときに居合わせた人に、医師はそのときの状況やそのほかにみられた症状について尋ねます。例えば、意識が障害されたときに腕や脚が何度も震えた場合は、けいれん発作が原因である可能性があります。医師は患者の家族や友人とも話し、家族や友人は、患者に関する次のような重要な情報を救急医療従事者や医師に正直にすべて伝える必要があります。

  • 薬(処方薬およびレクリエーショナルドラッグ)、アルコール、その他の有害物質を使用しているかどうか、何を使用しているか

  • 意識が変化する前にけがをしなかったか

  • 症状がいつ、どのように始まったか

  • 何らかの感染症、その他の病気(糖尿病、高血圧、けいれん発作、甲状腺、腎臓、肝臓の病気など)、その他の症状(頭痛や嘔吐など)が現在または過去になかったか

  • 最後に正常に見えたのはいつか

  • いつもと違うものを食べたり、旅行したりしなかったか

  • 可能性のある原因に関する心当たりがないか(例えば、最近患者が抑うつ状態にあった、自殺をほのめかしていたなど)

このような情報は、原因の特定に役立ち、回復の可能性を評価する助けになります。このような情報が得られなければ、たとえ広範な診断検査を行ったとしても、原因の多くが特定されません。例えば、患者がいつもと違うものを食べていた場合は、毒素(毒キノコに含まれるものなど)が原因の可能性があります。患者が最近旅行していた場合は、訪れた地域でよくみられる感染症が原因の可能性があります。錠剤の空の容器または薬を使用するための道具が近くで見つかれば、薬の過剰摂取が原因の可能性があります。患者が薬剤や有害物質を摂取した場合、家族や友人はその物質のサンプルまたは容器を医師に渡すべきです。

知っていますか?

  • 昏睡の原因を特定する上で、家族や友人からの情報が、診断検査よりも役立つことがよくあります。

家族や友人からの情報は通常は貴重であり、正しい診断につながる可能性は身体診察や検査を上回ります。例えば、すべての薬について過剰摂取の可能性を否定できるような検査はありません。

身体診察

体温を測定します。体温が異常に高い場合は、感染症、熱中症、体を刺激する薬(コカインやアンフェタミン類など)の過剰摂取が考えられます。体温が異常に低い場合は、寒冷への長時間の曝露、甲状腺機能低下症、アルコール中毒、鎮静薬の過剰摂取の可能性が考えられ、高齢者では感染症も考えられます。

医師は、頭部、顔、皮膚を診察し、以下のような原因の手がかりがないかを調べます。

  • 眼の周りのあざ、切り傷、皮下出血、または鼻や耳から漏れる髄液(脳の周囲を流れている液体)は、頭部外傷を示唆します。

  • 注射針の痕跡は、ヘロインなどの薬物の過剰摂取を示唆します。

  • 発疹を伴う発熱は、しばしば敗血症(血流感染症に対する全身の重篤な反応)や脳などの感染症を示唆します。

  • ある種の口臭は、糖尿病性ケトアシドーシスや毒物または大量のアルコールの摂取を示唆します。

  • 患者が舌をかんでいた場合、けいれん発作が原因である可能性があります。

神経学的診察

徹底的な神経学的診察が行われます。この診察は、以下のことを判定するのに役立ちます。

  • 意識障害はどれくらい重症か

  • 脳幹が正常に機能しているかどうか

  • 脳のどの部分に損傷があるか

  • 可能性のある原因は何か

患者に意識がない場合、医師はまず声をかけて起こそうとし、次に患者の腕や脚、胸、または背中を触って起こそうと試みます。これらの方法で患者が目を覚まさなければ、爪床を圧迫したり皮膚をつねったりして、痛みや不快感を伴う刺激を与えます。それによって患者が眼を開いたり、顔を歪めたり、意図的に痛みの刺激から身を引くような動きをしたりする場合、意識障害は重度でないと判定されます。患者が音を立てられる場合、大脳半球はある程度機能しています。眼が開く場合、おそらく脳幹の一部は機能しています。

医師はときに、グラスゴー昏睡スケール(Glasgow Coma Scale)などの標準化された尺度を用いて意識レベルの変化を追うことがあります。このスケールは、刺激への反応を点数化するもので、眼の動き、発話、運動を評価します。これは、患者の反応のなさを評価する上で、比較的信頼できる客観的な尺度です。

異常な呼吸パターンは、脳のどの部分が機能していないかを知る上での手がかりになります。

痛みの刺激に対する反応を確認することは、脳や脊髄のどこかに機能不全が起こっているかどうかを判断するのに役立ちます。昏睡状態にある患者に痛みの刺激を与えると、異常な姿勢が誘発されることがあります。例えば、頭が後ろに傾いて両腕と両脚は伸びたままになることがあります(除脳硬直と呼ばれる状態)。あるいは、両脚が伸びて両腕は曲がったままになることもあります(除皮質硬直と呼ばれる状態)。この検査は、正常に機能していない脳の領域を特定する助けになります。

全身の筋肉が緩んでいて、痛み刺激を与えてもまったく動かない状態は、考えられる中で最悪の反応です。これは中枢神経系(脳と脊髄)に重度の機能障害があることを意味します。しかし、筋緊張と動きが回復する場合は、原因が可逆的なもの(鎮静薬の過剰摂取など)である可能性があります。

特定の部位でみられる自動的な反射は、診察用のハンマー(打腱器)で関節をたたくなどの手技によって確認されます。医師は、体の様々な部位の反射の強さの違いを調べます。この情報は、正常に機能していない脳の領域を特定する上で役立つことがあります。

無反応になった原因が意識に影響を及ぼさない精神障害であれば、自動的な反射はすべて正常にみられます。

を観察することでも、脳幹がどの程度機能しているか、また意識障害の原因は何かを知る上で重要な手がかりが得られます。医師は、瞳孔の位置、大きさ、明るい光への反応、(意識がはっきりしている患者では)動く物を追う能力、網膜の状態を確認します。正常な瞳孔は、暗い所では大きく開き(散大)、光が当たると小さくなります(収縮)。しかし、昏睡状態の人では、瞳孔が光に正常に反応しないことがあります。瞳孔が光に反応するかどうか、またどのように反応するかは、昏睡の原因を特定するのに役立ちます。

正確な評価を行うには、患者が緑内障の治療薬(瞳孔の大きさに影響を及ぼす薬)を使用しているかどうかの情報が必要であり、通常はもともと瞳孔の大きさに違いがあるかどうかの情報が必要です。

医師は眼の中を検眼鏡で観察し、頭蓋内圧の上昇を示す徴候がないかも調べます。

頭蓋内の圧力の上昇を示唆する所見がある場合、医師は直ちに画像検査を行って、脳内に腫れ、出血、髄液の流れを妨げる構造異常、または腫瘤(腫瘍、血液の蓄積、または膿瘍など)がないかを確認します。画像検査の結果から圧力の上昇が疑われる場合には、ドリルで頭蓋骨に小さな穴をあけ、脳室(脳の内部の液体で満たされた空間)の1つに装置を挿入する治療が行われることがあります。この装置は、圧力を下げるとともに、治療中に圧力をモニタリングすることを目的として使用されます。

特定の手技への反応が、脳幹の機能が正常かどうかを判断する上で参考になりますが、具体的には以下のものがあります。

  • 頭を回転させて眼の動きを観察する。

  • 患者の意識がなければ、片方の耳、次に他方の耳にそっと氷水を流し込み、眼の動きを観察する(カロリックテストと呼ばれる)。

カロリックテストは、患者に意識がなく、他の方法では眼の動きを確認できないときにのみ行われます。意識のある患者の耳に氷水を流し込むと、重度の回転性めまい、吐き気、嘔吐が生じることがあります。

臨床検査

臨床検査を行うと、昏迷または昏睡の原因に関するさらなる手がかりが得られます。

血液中の糖、電解質(ナトリウムなど)、アルコール、酸素、ミネラル(マグネシウムなど)、二酸化炭素の濃度や量を測定します。二酸化炭素の濃度が高ければ、呼吸障害が示唆されることがあり、人工呼吸器が必要になることがあります。また、赤血球数と白血球数を測定します。血液検査を行い、肝機能と腎機能を調べます。

尿を分析し、広く使用されている物質または摂取が疑われる有害物質がないかを調べます。血液と尿のサンプルを検査室に送って、培養検査(微生物を増殖させて調べる検査)を行い、感染の有無を確認します。

指にセンサー(パルスオキシメトリーと呼ばれます)を取り付けて、血液中の酸素レベルを測定します。動脈から採取した血液のサンプルを用いて、血液中の酸素や二酸化炭素、ときにその他の気体のレベルも測定します(動脈血ガス検査)。これらの検査は、心臓や肺の病気の有無を調べるために行います。

疑われる昏睡の原因に応じて、その他の臨床検査が行われることもあります。

その他の検査

心電図検査を行い、脳への血流を減少させる心疾患がないかを確認します。血液中の酸素の量を減少させる肺の病気がないかを調べるために、胸部X線検査が行われることもあります。

原因がすぐに特定されない場合は、頭部のCT検査またはMRI検査を行って、脳に腫瘤、出血、腫れなどの構造的な損傷がないか確認します。

画像検査を行っても原因がはっきりしない場合や、髄膜炎またはくも膜下出血(脳を覆う組織層と組織層の間への出血)の可能性がある場合は、腰椎穿刺を行って髄液のサンプルを採取することがあります。採取した髄液を観察して分析し、様々な原因の特定に役立てます。腰椎穿刺の前には頭部のCTまたはMRI検査を行うのが一般的で、例えば腫瘍や脳内出血(脳内への出血)によって頭蓋内の圧力(頭蓋内圧)が上昇していないかを確認します。圧力が上昇している場合、腰椎穿刺は危険となる可能性があるため、行うべきではありません。その状態で腰椎穿刺を行うと、脳の下で圧力が急激に低下することにより脳の位置が側方と下方にずれ、少なくとも理論的には、脳ヘルニアが発生または悪化する可能性があります。とはいえ、腰椎穿刺後のヘルニアは比較的まれです。頭蓋内圧が上昇している場合は、継続的にモニタリングし、減圧のための処置を行います。

意識障害の原因がけいれん発作であると疑われる場合や、他の検査を行っても原因がはっきりしない場合は、脳の電気的活動を確認するために脳波検査が行われることがあり、脳が正常に機能していない場合はこの検査で異常がみられます。脳波検査では、腕や脚がひきつっていなくても、ときにけいれん発作が起きていることが明らかになる場合があります(非けいれん性てんかん重積状態と呼ばれます)。ときに、行動障害または精神的な問題のある人が無反応に見える場合は、病院でビデオ脳波モニタリング検査が行われます。この検査は、脳機能が正常であるかどうかを判定するために行われます。検査の結果は、医師が問題を特定して適切に治療する上で役に立ちます。

昏迷と昏睡の予後(経過の見通し)

一般に、意識障害のある患者が6時間以内に音、触覚、またはその他の刺激に反応し始めれば、回復する可能性は高いです。1日目に以下のうち1つ以上がみられる場合も、回復の見込みが高いといえます。

  • 発話が回復する(内容が不可解な場合も含む)

  • 眼で物を追うことができる

  • 指示に従うことができる

  • 筋緊張が正常に戻る

以下に挙げるように、回復の可能性は、意識障害の原因と持続時間によっても変わります。

  • 鎮静薬の過剰摂取:脳に損傷が起こるほど長時間の呼吸停止が起こっていない限り、回復が見込めます。

  • 低血糖:脳に糖が不足している状態が1時間以内であれば、完全な回復を期待できます。

  • 頭部外傷:昏睡が数週間続いても(ただし3カ月を超えない場合)、かなり回復する場合があります。

  • 脳卒中:昏睡が6時間以上続いた場合は、永続的な脳の損傷が残る可能性が高くなります。

  • 感染症:迅速に治療すれば、しばしば完全な回復が可能です。

ほかに病気(糖尿病、高血圧、肺や心臓の病気など)があり、重症の場合、それが回復に悪影響を及ぼすことがあります。また、集中治療室(ICU)の長期滞在も、神経の損傷や筋力低下、肺塞栓症床ずれ尿路感染症などの問題につながる可能性があります。

心停止後に以下のうち1つでも該当するものがあれば、完全な回復はまれになります。

  • 心疾患、高血圧、糖尿病などの特定の病気

  • 6時間以上昏睡が続いている

  • 意図しない(不随意な)筋肉の動き(通常は筋肉のひきつり)

  • 腕や脚の異常な伸展(除脳硬直)または痛み刺激に対する無反応

  • 1~3日経過しても瞳孔が光に反応しない

  • 心停止後24~48時間以内に発生し、繰り返し再発するけいれん発作

心停止後に腕や脚を動かすことができない場合、回復は困難です。

ただし、心停止後に医師が患者の体を冷却する処置をしていた場合は、通常はこれらの反応が起こるのをさらに3日待つことになります。体を冷やすことで、心停止後も脳の機能が維持されることがありますが、脳機能の回復が遅くなる傾向もあります。

脳幹または大脳半球が機能しているかどうかを判定するため、ときに体性感覚誘発電位検査と呼ばれる検査が行われます。この検査では、弱い電気信号を発する電極を体の各部に取り付け、脳波を利用して、電気信号が脳に到達するまでの時間を測定して記録します。同様に、聴性誘発電位検査では、左右の耳のそばでクリック音を鳴らし、聴覚信号が脳に届くかどうかを調べます。誘発電位の信号が脳に届かないことが何度も繰り返される場合は、予後がよくない傾向があります。

若い人では脳の自己修復がより速く完全に起こるため、小児や(ときに)若い成人では、高齢者と比べて回復の度合いが高くなります。

深い昏睡状態が数週間以上続く場合は、人工呼吸器、栄養チューブ、および薬の使用を継続するかどうかの決断が必要になります。家族はこうした問題について医師とよく話し合わなければなりません。患者が事前指示書(リビングウィルや医療判断代理委任状など)を作成している場合、治療の継続に関する決定は指示書に従うべきです。

昏迷と昏睡の治療

  • 呼吸を助け、脳への血流を改善するための処置

  • 原因の治療

緊急の治療

患者の覚醒レベルが急速に低下し、起こすことが難しくなってきている場合、迅速な治療が必要であり、診断を下す前に治療が必要になることもしばしばあります。このような急速な意識レベルの悪化がみられる場合、緊急の治療が必要です。

治療の最初の段階としては以下の点について確認を行い、これらはときに救急医療従事者が行うこともあります。

  • 気道が開通しているか

  • 呼吸が十分であるか

  • 脈拍、血圧、心拍数が正常であるか(血液が脳に確実に届いていることを確認するため)

可能であれば、問題を是正します。

患者はまず病院の救急外来で治療されてから、集中治療室に移されます。救急外来でも集中治療室でも、看護師によって心拍数、血圧、体温、血中酸素レベルがモニタリングされます。脳がさらに損傷されるのを防ぐため、これらの値に異常があれば直ちに是正します。多くの場合、直ちに酸素投与を行い、薬やブドウ糖を速やかに投与できるように静脈内に管が挿入されます(静脈ラインの確保)。

体温が高すぎる場合または低すぎる場合は、患者の体を冷却(熱中症の治療)または加温(低体温症の治療)するための処置が行われます。他の病気(心疾患や肺疾患など)がある場合は、その治療を行います。

血圧を注意深くモニタリングして、血圧が高すぎたり低すぎたりしないようにします。高血圧は意識をさらに障害し、脳卒中などの他の問題を引き起こす可能性があります。低血圧でも、脳に十分な血液と酸素が供給されないため、意識が障害されることがあります。

原因の治療

可能であれば、昏迷または昏睡の原因を治療します。

低血糖に対しては、ブドウ糖を直ちに静脈内に投与します。低血糖が原因で起こった昏睡は、このブドウ糖の投与によってすぐに回復します。このとき、ブドウ糖と一緒に、必ずチアミンが投与されます。これは、低栄養状態の人(通常の原因はアルコール乱用)にブドウ糖だけを投与すると、ウェルニッケ脳症と呼ばれる脳疾患を誘発したり、悪化させたりすることがあるためです。

頭部外傷が原因であれば、医師が脊椎の損傷がないことを確認するまで、患者の首が動かないように固定しておく必要があります。頭部外傷後に昏迷または昏睡状態に陥った人には、アマンタジンのように神経細胞の機能を改善する薬による治療が有益になる場合があります。このような治療により、より早く一定水準の機能が回復する可能性があります。しかし、長期的な改善という観点からは、このような治療を行っても行わなくてもほとんど差が出ない可能性があります。

オピオイドの過剰摂取が疑われる場合は、解毒剤であるナロキソンが投与されます。意識障害の原因がオピオイドだけである場合は、ほとんど即時に回復する可能性があります。オピオイドを使用している患者には、ナロキソンの自己注射器が処方されることがあります。オピオイドの過剰摂取が疑われる場合、家族や介護者がこの注射器を使って直ちにナロキソンを投与できます。

まれに、ある種の有害物質または薬剤を1時間以内に飲み込んだことが疑われる場合は、太いチューブを患者の口から胃の中に入れ、胃の内容物を吸い出すことがあります。胃の内容物を吸い出すのは、中身を調べるためと、その有害物質がさらに吸収されるのを防ぐためです。その同じチューブか鼻から入れたより細いチューブ(経鼻胃管)を介して、活性炭を投与する場合もあります。活性炭は、問題の物質が胃からさらに吸収されるのを阻止します。

呼吸を制御する治療

一般的に、深い昏迷または昏睡状態にある人には、呼吸用のチューブと人工呼吸器による呼吸の補助が必要になります。呼吸が(脳の損傷や機能不全などが原因で)遅すぎるか浅すぎる、または障害されている場合は、人工呼吸器による補助が特に重要です。

呼吸用のチューブ(気管内チューブ)は、口から気管に挿入されます(これを気管挿管といいます)。そのチューブを通して酸素を直接肺に送り込みます。このチューブには、嘔吐が起きたときに胃の内容物が肺に吸い込まれるの防ぐ役割もあります。医師はチューブを挿入する前に、患者ののどに麻痺薬のスプレーを噴霧したり、筋肉が無意識に収縮するのを防ぐ薬(筋弛緩薬)を投与したりすることがあります。続いて、チューブを人工呼吸器に接続します。

人工呼吸器は興奮を引き起こす可能性がありますが、これは鎮静薬で治療できます。

頭蓋内圧の上昇の治療

頭蓋内の圧力(頭蓋内圧)が上昇している場合は、減圧のために以下のような対策をとります。

  • ベッドの頭側を高くします。

  • 呼吸を速める(過換気と呼ばれます)ために人工呼吸器が用いられることもあり、特に最初の30分間はよく使用されます。呼吸を速くすると、肺から二酸化炭素が除去され、血液中の二酸化炭素濃度が低下します。その結果、損傷を受けていない脳領域の血管が狭くなり、脳に到達する血液が少なくなります。これにより、一時的に(約30分間)ではありますが頭蓋内圧が急速に低下し、脳へのさらなる損傷を防ぐことができます。一時的に圧力を下げておくことで、医師は原因の治療を開始する時間を(例えば、緊急で脳手術を行うために)確保できます。

  • 脳内および全身の体液を減らすために利尿薬などの薬が使用されることもあります。利尿薬は、腎臓がナトリウムと水を尿中に排泄するのを促すことにより、過剰な体液の除去を助けます。

  • 筋肉の過度の不随意収縮または人工呼吸器による興奮を抑えるために鎮静薬が投与されることもあります。これらの問題があると、頭蓋内圧が上昇することがあるためです。

  • 血圧が非常に高い場合は、血圧を下げます。

  • ときに、脳室にドレーン(シャント)を挿入して髄液を排出することもあります。過剰な髄液の排出は、頭蓋内の圧力を下げるのに役立ちます。

脳腫瘍または脳膿瘍によって頭蓋内の圧力が高まっている場合は、圧力を下げるためにデキサメタゾンなどのコルチコステロイドが役立つ場合があります。しかし、コルチコステロイドは脳内出血や脳卒中などの特定の病気を悪化させる可能性があるため、そのような病気によって圧力が高まっている場合は、コルチコステロイドは使用しません。

ほかの方法で効果がなければ、以下の手段が試みられます。

  • 頭部外傷または心停止の後に頭蓋内の圧力が上昇した場合、体温を下げる対策を試みることがあります。それらの対策は、心停止を起こした人の一部で助けになることがあります。ただし、この対策を用いることについては議論もあります。

  • 脳への血流と脳の活動を減少させるために、ペントバルビタール(バルビツール酸系薬剤の一種)が用いられることがあります。この治療により、人によっては予後が改善する場合があります。しかし、すべての人に有益というわけではなく、低血圧や不整脈などの副作用があります。

  • 外科的に頭蓋骨を開き(開頭術)、腫れた脳が広がれるスペースを作り、脳にかかる圧力を下げることもあります。この治療によって死を回避することはできますが、機能は改善されないかもしれません。

長期的なケア

昏睡状態にある人には包括的なケアが必要になります。栄養は鼻から胃に挿入したチューブを介して与えられます(経管栄養と呼ばれます)。腹部を切開して直接胃にチューブを挿入し、そのチューブから栄養を胃または小腸に送り込むこともあります。これらのチューブから薬を投与することもあります。

体を動かせないことによって様々な問題が起こるため、それらの問題を予防するための対策が不可欠です(床上安静による問題を参照)。例えば、以下のようなことが起こりえます。

  • 床ずれ同じ姿勢で寝ていると、体の一部分への血液供給が遮断され、その部分の皮膚が破れて、床ずれ(褥瘡)が発生する可能性があります。

  • 筋力低下: 筋肉を使用しないと、筋肉が衰えて(萎縮して)筋力が低下します。筋力が低下している人は、人工呼吸器を外すと、自分で呼吸するのが困難になることがあります。

  • 拘縮:体を動かさずにいると、筋肉が永久的に硬直して短縮し(拘縮)、関節が曲がったまま元に戻らなくなることがあります。

  • 血栓:体を動かさずにいると、脚の静脈に血栓が形成されやすくなります。血栓が剥がれて血流に乗って肺まで移動し、肺の動脈をふさいでしまうこともあります(肺塞栓症)。

  • 腕や脚の筋肉や神経の損傷:長時間動かずに同じ姿勢で横になっていると、肘、肩、手首、膝などの突出した骨の近くで体表付近を走る神経に圧力がかかることがあります。そのように圧力がかかると、神経が損傷されることがあります。その結果、その神経が制御している筋肉の機能も低下します。

床ずれは、頻繁に体位を変えるとともに、ベッドの表面に接する部分(かかとなど)の下に保護パッドを置いて保護することで、予防することができます。

拘縮を予防するため、患者の関節をすべての方向に優しく動かしたり(他動的関節可動域訓練)、関節を特定の姿勢で固定したりするケアを理学療法士が行います。運動能力を失った人が機能を回復するには、理学療法を早期に開始することが有用です。

血栓の予防策として、薬剤の使用や脚の圧迫または挙上などが行われます。他動的関節可動域訓練で行うように、四肢を動かすことも血栓の予防に役立つ可能性があります。

まばたきができないため、眼が乾燥することがあります。これには点眼薬が有用です。

失禁がある場合は、皮膚を清潔で乾燥した状態に保つためのケアが必要です。膀胱が機能せず、尿がたまってしまう場合は、膀胱にチューブ(カテーテル)を留置して排尿させます。尿路感染症を予防するため、カテーテルは丁寧に洗浄し、定期的に点検を行います。

高齢者での重要事項:昏迷と昏睡

高齢者では、以下の理由から、嗜眠、昏迷、昏睡などの意識障害が特に懸念されます。

  • 加齢に伴う脳の変化加齢に伴い、脳内の神経細胞の数が減少し、脳への血流が減少します。その結果、高齢者の脳は薬による影響を打ち消す能力が低下するため、高齢者では薬によって意識や精神機能に障害が現れやすくなります。また、脳の血管がもろくなるため、脳卒中のリスクが高まります。

  • 加齢に伴うその他の変化:体内の他の部位に起こる変化によっても、薬の影響に対する感度が上がります。例えば、加齢に伴い、腎臓では薬を尿中に排泄する能力が低下し、肝臓では様々な薬を分解(代謝)する能力が衰えます。その結果、薬が体内から除去されにくくなります。血液中に残る薬の量が増え、血液中にとどまる時間が長くなる可能性があります。すると、より多くの薬が脳に到達するようになり、脳機能に影響を及ぼします。その結果、高齢者は少量の薬でも錯乱に陥ったり、眠気を催したりすることがあります。高齢者が薬を使用する場合は、しばしば投与量を通常より少なめにする必要があります。

  • 複数の薬の使用:多くの高齢者は、高血圧、糖尿病、関節炎などの慢性疾患にかかっているため、複数の薬を使用しています(多重投薬と呼ばれます)。複数の薬を使用すると、薬物相互作用のリスクが高まり、脳に影響が現れる可能性があります。例えば、ある薬が別の薬の血中濃度を高めることがあります。

  • 複雑な服薬スケジュール:高齢者が多くの薬を服用しなければならない場合、その服薬スケジュールが複雑になることもあります。その結果、服薬スケジュールを誤ったり過剰にまたは過少に服用してしまったりする可能性が高まります。

  • 軽い病気の影響:高齢者では若い人に比べて、尿路感染症や脱水といった比較的軽い病気で意識障害をきたす可能性が高まります。

  • 他の病気の存在:高齢者によくみられる病気の多くが、意識障害の原因になります。そのような病気には、脳卒中、脳腫瘍、動脈瘤(脳内の動脈の弱くなった部分にできた膨らみ)、代謝性疾患、重度の肺疾患、重症感染症、心不全などがあります。ほかにも、別の問題(脱水や感染症など)が生じた場合に意識障害のリスクを高める病気(糖尿病など)があります。

  • 転倒と頭部外傷のリスクが高い:高齢者では、転倒や自動車事故で頭部外傷を負うリスクが高くなります。損傷は脳が振動したり、組織が裂けたりしたときに生じ、頭蓋内で出血が起きることがあります。硬膜下血腫(脳を覆う組織層の最外層と中間層との間からの出血)は、しばしばそのような損傷に起因します。また、脳は加齢とともに縮んでいき、層と層の間にある血管が引き伸ばされます。その結果、血管が裂けて出血が起きることがあります。

  • 毒素への生涯曝露:生涯にわたり食品や環境に含まれる毒素にさらされてきた人では、脳細胞が損傷されているため、意識障害のリスクが高まります。

  • 意識障害が気づかれにくい:高齢者では、意識障害が気づかれにくいことがあります。高齢者の覚醒レベルが低下したり、周囲のことに対する認識能力が低下したりしても、家族や友人がそれに気づかなかったり、加齢によるものだと考えたりすることがあります。(意識障害は加齢に伴う正常な変化ではありません。)認知症または脳疾患がある高齢者や、脳卒中を起こしたことのある高齢者では、意識状態の変化を見つけるのが難しい場合があります。

  • 回復能力:脳の自己修復能力は加齢につれて低下するため、高齢者では昏迷や昏睡から回復する可能性が低くなります。

高齢者では、一般に薬への反応、脱水、感染症によって意識が障害されます。

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