脊髄性筋萎縮症には主要な病型が5つあり、それぞれ筋力低下と筋萎縮の程度が異なります。
病型によっては、車いすでの生活を余儀なくなれ、余命が短くなることもあります。
脊髄性筋萎縮症は症状から疑われ、その診断は家族歴、筋肉と神経の機能の検査、異常遺伝子を検出するための血液検査の結果に基づいて下されます。
根治的な治療法はありませんが、理学療法と装具の使用が助けになることがあります。
(末梢神経系の概要 末梢神経系の概要 末梢神経系とは、中枢神経系以外の神経系、すなわち脳と脊髄以外の神経のことを指します。 末梢神経系には以下のものが含まれます。 脳と頭部、顔面、眼、鼻、筋肉、耳をつなぐ神経( 脳神経) 脊髄と体の他の部位をつなぐ神経(31対の脊髄神経を含む) 体中に分布している1000億個以上の神経細胞 さらに読む も参照のこと。)
脊髄性筋萎縮症は、通常は(性別が関係する伴性遺伝ではなく)常染色体 劣性遺伝 劣性遺伝疾患 遺伝子とは、DNA(デオキシリボ核酸)のうち、細胞の種類に応じて機能する特定のタンパク質の設計情報が記録された領域のことです。 染色体は非常に長いDNA鎖からできており、そこには多く(数百~数千)の 遺伝子があります。特定の細胞(例えば、精子と卵子)を除き、人間の正常な細胞には23対の染色体があります。22対の常染色体と1対の性染色体があり、合わせて46本の染色体があります。通常、それぞれの対を構成する染色体は、片方を母親から、もう片方... さらに読む の形質として遺伝します。すなわち、この病気の遺伝子を両親から1つずつ、合わせて2つ受け継いで初めて、この病気を遺伝したことになります。この病気では、末梢神経だけでなく、脳や脊髄(中枢神経系)も侵されます。
脊髄性筋萎縮症には主要な病型が5つあります。
SMAの症状
脊髄性筋萎縮症の主要な病型のうち最初の4つでは、乳児期や小児期に最初の症状が現れます。
脊髄性筋萎縮症0型は、最重症の病型で、出生前の胎児の段階で影響を及ぼし始めます。そのような胎児は妊娠後半に期待されるほど体を動かしません。出生すると、乳児には重度の筋力低下がみられ、筋緊張がみられません。反射がみられず、関節の運動は制限されています。顔面の両側が麻痺しています。心臓の先天異常もみられます。呼吸を制御する筋肉の筋力が非常に弱いです。十分な呼吸ができないため、 呼吸不全 呼吸不全 呼吸不全は、血液中の酸素レベルが危険なほど低くなったり、血液中の二酸化炭素濃度が危険なほど高くなる病気です。 呼吸不全の原因としては、気道をふさぐ病気、肺組織を損傷する病気、呼吸を制御する筋肉を衰えさせる病気、呼吸を促す仕組みが抑制される病気などがあります。 激しい息切れ、皮膚の青みがかった変色、錯乱または眠気などの症状がみられることがあ... さらに読む を起こし、しばしば生後数カ月で死亡します。
脊髄性筋萎縮症I型(乳児脊髄性筋萎縮症またはウェルドニッヒ-ホフマン病)では、しばしば出生時または生後数日以内に筋力低下が明らかになります。生後6カ月までには、ほぼ必ず筋力低下が明らかになります。乳児では筋緊張と反射がなく、吸うこと、飲み込むこと、そして最終的には呼吸も困難になります。生後1年までに95%の患児が、4歳までにすべての患児が、通常は呼吸不全により死亡します。
脊髄性筋萎縮症II型(中間型またはデュボビッツ病)では、典型的には生後3~15カ月の間に筋力低下が起こります。座ることができるようになるのは患児の4分の1以下です。這ったり歩いたりすることはできません。反射はみられません。筋力が低下し、飲み込むことが困難になります。ほとんどの場合は、2~3歳までに車いすでの生活を余儀なくされます。早期に死亡することも多く、その原因は通常、呼吸障害です。しかし、一部の小児は生き延び、筋力低下は生涯残るものの悪化が止まります。この場合は、しばしば脊椎に重度の弯曲がみられます(脊柱側弯症)。
脊髄性筋萎縮症III型(若年型またはクーゲルベルク-ウェランダー病)は、生後15カ月から19歳までの間に発症し、ゆっくり悪化していきます。そのため、この病型の人は通常、I型またはII型脊髄性筋萎縮症の人と比べて余命が長いです。健康な人と同じくらい生きる人もいます。筋力の低下と筋肉の萎縮は股関節部と太ももから始まって、後に腕、足、手へと広がります。患者の余命は、呼吸器に問題が起きるかどうかに左右されます。
脊髄性筋萎縮症IV型では、通常は30~60歳の成人期に最初の症状が現れます。主に股関節部、太もも、肩の筋力がゆっくり低下し、筋肉が萎縮します。
SMAの診断
医師による評価
筋電図検査と神経伝導検査
血液検査による異常遺伝子の検出
ときに筋肉の生検
医師は通常、幼児で原因不明の筋力低下と筋肉の萎縮がみられた場合に脊髄性筋萎縮症の検査を行います。これらの病気は遺伝性であるため、家族歴も診断の手がかりになります。
筋電図検査と神経伝導検査 筋電図検査と神経伝導検査 病歴聴取と 神経学的診察によって推定された診断を確定するために、検査が必要になることがあります。 脳波検査は、脳の電気的な活動を波形として計測して、紙に印刷したりコンピュータに記録したりする検査法で、痛みを伴わずに容易に行えます。脳波検査は以下の特定に役立つ可能性があります。 けいれん性疾患 睡眠障害 一部の代謝性疾患や脳の構造的異常 さらに読む が診断の確定に役立ちます。約95%の患者では特定の遺伝子異常を血液検査で検出できます(遺伝子検査)。
ときに筋肉の生検も行われます。
SMAの治療
理学療法と作業療法
装具と補助具
筋肉の機能を改善し、身体障害の発生と死亡を遅らせる可能性がある薬
脊髄性筋萎縮症には根治的な治療法がありません。
理学療法と装具が役立つことがあります。小児は自分で食べたり、書いたり、コンピュータを使ったりできるよう、理学療法士や作業療法士から適切な補助器具を紹介してもらうことができます。
ヌシネルセンは、筋肉の動きをわずかに改善する可能性があり、身体障害の発生と死亡を遅らせる可能性もあります。ヌシネルセンは、脊髄周囲の空間へ注射します。薬剤を注射する前に、少量の局所麻酔で注射部位を麻痺させることがよくあります。そして、 腰椎穿刺 腰椎穿刺 病歴聴取と 神経学的診察によって推定された診断を確定するために、検査が必要になることがあります。 脳波検査は、脳の電気的な活動を波形として計測して、紙に印刷したりコンピュータに記録したりする検査法で、痛みを伴わずに容易に行えます。脳波検査は以下の特定に役立つ可能性があります。 けいれん性疾患 睡眠障害 一部の代謝性疾患や脳の構造的異常 さらに読む の施行時と同様、脊柱の下の方にある2つの椎骨の間に針を刺します。ヌシネルセンは最初は2カ月間にわたって4回投与します。その後は、4カ月間隔で定期的に投与します。
オナセムノゲン アベパルボベク-xioi(onasemnogene abeparvovec-xioi)は、一部の2歳未満の小児の治療に使用されます。投与は1回のみです。1時間かけて静脈から投与します。支えなしで座る、食事をする、寝返りを打つ、1人で歩くなどの 発達のマイルストーン 小児の発達 小児の体と知能と情緒は、1~13歳の間に飛躍的に発達します。よちよち歩きから走ったり飛んだりできるようになり、集団スポーツを楽しむようになります。1歳では、ほとんどの小児がなんとか理解できる程度の言葉をいくつか話せるだけですが、10歳までに、ほとんどの小児が本の感想文を書くことができ、コンピュータが使えるようになります。しかし、知的、情緒的、行動的発達の度合いは、乳児や小児によってかなり個人差があります。発達は次のような要因の影響をある... さらに読む を達成する助けになるようです。
リスジプラムは、成人と2歳以上の小児の治療に使用されます。液剤として、または栄養チューブを介して1日1回投与します。死を遅らせ、呼吸を補助するための 人工呼吸器使用 人工呼吸器 人工呼吸器は、肺への空気の出入りを補助するために用いる機械です。 呼吸不全の患者の一部は、人工呼吸器(肺に出入りする空気の流れを補助する機械)による呼吸の補助を必要とします。人工呼吸器によって命が助かることもあります。 人工呼吸器には、多くの使い方があります。通常は、合成樹脂製のチューブを鼻または口から気管に挿入します。人工呼吸器が数日以上必要な場合は、首の前側を小さく切開して(気管切開)、気管に直接チューブを通すこともあります。人工呼... さらに読む の必要性を減らすことができます。